"6年間の節約生活、夫にとっては「庶民ごっこ」だった" 第15話
引っ越しのトラックから荷物を運び入れ、段ボールを解いた週末の朝。 窓をけると、初の柔らかなが、真しい麻のカーテンを膨らませた。
キッチンからは、コーヒーのばしい匂いが漂っている。 玄関のドアがき、鍵の擦れる音がした。
「ただいま」
夫が、袋を抱えてリビングに入ってきた。 所にしくできたベーカリーのロゴが入った袋。 朝の散歩がてら、焼きたてのクロワッサンとバゲットを買ってきたのだ。
夫の首には、あの傷だらけのG-SHOCK。 爪のえ際を覗き込むと、今朝もタワシで丹に洗った形跡があったけれど、うっすらとのが残っていた。
「買ってきたよ。まだ温かい」
「ありがとう。コーヒー、今淹れたところ」
テーブルのに、つのマグカップと、焼きたてのパンを並べる。 窓から差し込む朝のが、皿ののパンの焼き目を黄に照らしていた。
夫が子を引き、向かい側に腰をろす。
「は、現?」
私が尋ねると、夫はマグカップを両で包み込みながら頷いた。
「午は本の現に入って、職たちとモルタルの調テストだ。午は本社に戻って、耐震設計の会議がある」
「忙しいわね」
「まあな。でも、面いよ」
夫はコーヒーをすすり、それからふといしたように、エプロンのポケットからさな帳を取りした。
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「あ、そうだ、彩乃」
「ん?」
「来の旬、材の産確認で、と岡に張が入りそうなんだ。泊になるとう」
夫は帳をき、私のに差ししてきた。
「彩乃のプロジェクトの納期、確か来の半だったよな? 俺がを空けても、活の負担にならないか確認したくて。……今夜、お互いのスケジュール、緒に見てもいいか?」
私は、夫の顔を見た。
お伺いをてるような怯えはない。 勝に段取りをつけて丸め込もうとする傲さもない。 ただ、同じので暮らす対等なパートナーとして、活の輪を緒に回そうとする、穏やかで誠実な差し。
胸の奥に、あたたかいものが静かに広がっていった。
「ええ、いいわよ」
私は笑って、クロワッサンをつに取った。
「夕飯のあと、でカレンダーを見ましょう」
「分かった」
夫も、嬉しそうに笑った。 その顔には、の無骨さと、この半でに入れたしい覚悟が、自然なとなって刻まれていた。
失われたは戻らない。 あの夜、みなとみらいのホテルのたいシャンパンの匂いも。 会が度の腰を折った瞬の、元が崩れ落ちるような絶望も。 の慎ましい暮らしが「作られた箱庭」だったとったの、あの凍りつくような屈辱も。
なかったことには、決してならない。 私たちの結婚は、あの、確かに度々に壊れたのだ。
傷跡は消えない。 鏡を見るたび、ふとした瞬に、胸の奥の古傷がチクリと痛む夜は、これからもきっとやってくる。
けれど、私たちはっている。 壊れた器を、箔で誤魔化して飾りてる必はないことを。 割れた破片をつずつ拾い集め、自分のでやすりをかけ、痛みを抱えたまま、もう度繋ぎわせることはできるのだと。
「おいしいね、このパン」
「だろ? も買ってこようか」
「ううん、は私が起きして、フレンチトースト焼くわ」
常の、ありふれた会話。 誰の庇護でもなく、誰の支配でもない、私たちの現実。
あの、会が夫にをげた、私たちの結婚は度壊れた。 でも、もう度並んで歩くかどうかは、私たち自で決めた。