みかん小説
本棚

"新調した下着と消えた八百万円" 第11話

義実での修羅を終えて震えていた夜も、何も言わずにただ両に缶ビールを抱えて部に駆けつけてくれた。 本当の方がでもいてくれることのさを、澪はこの数ヶで嫌というほど噛み締めていた。

澪は笑みをこぼし、軽やかに指先をかした。

『予約ありがとう! 今は私が絶対にご馳するからね。すぐくね』

送信ボタンを押すと、画面の向こうですぐに既読がついた。胸の奥が、じんわりと温かい湯気で満たされるような覚があった。

壁掛けの計を見やると、約束のまではまだしがあったが、部でじっとしているのがもったいないほどの素らしい陽気だった。駅までののりを、いつもよりし回りして、咲き始めた川沿いの桜並を歩いていこう。

澪はラックから仕てのよいトレンチコートを取り、腕を通した。お気に入りの革のバッグを肩にかけ、靴箱かららしいるいエナメルのパンプスを取りしてを入れる。

玄関のドアノブにをかけ、押しけると、微かにの蕾がほころぶような、甘く清々しいの空気がふわりと流れ込んできた。 部を振り返り、気の消えた静かな空に「ってきます」とさく声をかける。

にて、な扉を閉め、キーを鍵穴に差し込んで回した。

広告

カチリと鳴ったさな属音は、彼女のしいの扉が、きくかれた図のようだった。過のたい記憶を完全に締めし、に満ちた未来へと踏みす境界の音。

階段をり、段ごとに軽なステップを刻んでいく。ヒールのてる乾いたリズムが、まるでこれからの自由な歩みを祝福する拍子のようによく響いた。

エントランスを抜け、アスファルトのへを踏みす。 がそよぐへと歩を踏みすと、柔らかながふわりと頬を撫で、まとめた髪の毛先を優しく揺らした。 のには、の厳しさを乗り越えたの温もりと、これから芽吹いていく命の瑞々しい息吹が確かに混ざりっている。

澪はを止め、く、く、肺いっぱいにその空気を吸い込んだ。

見げた空は、どこまでもく、どこまでも澄み切っていた。 ひとつない圧倒な青さは、まるでしく塗り直された広なキャンバスのように、これからの彼女がどんなにでも染めげていける未来の自由を静かに告げていた。

唇に灯したのを微かに緩め、澪はを向いた。 もう度と、誰かの顔を窺って俯くことはない。 の眩しいのを、彼女は自分の確かな取りで、颯爽と歩きした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: