"初婚のはずの夫、新婚のベッドの奥に4年前の結婚写真" 第1話
「奥さん、ちょっとをとめて、こっち見てもらえますか」
作業着の背を丸めていた清掃業者の佐藤さんが、くかすれた声をした。
世田のマンションに引っ越して半。 寝のダブルベッドの元から、拭いても拭いても黒の末が落ちるのがずっと気になっていた。
夫の健太に相談するたび、返ってくるのはいつも同じ気のない言葉だった。 「無垢材の古いフレームだからな。湿気でくずが落ちてるだけだろ。わざわざ業者なんて呼ぶなよ、がかかる」
だが、掃除をかけた翌朝には、シーツの端に指先で潰した墨のような黒い汚れがつく。 喉の奥に引っかかるような、古びた樟脳と埃の混ざった匂いも消えなかった。 広告代理で管理の仕事をしている私は、審な違をそのまま放置しておくことがどうしてもできなかった。 健太が泊の阪張にた曜の午、私はネットで見つけた具専の特殊清掃を呼んだ。
「これ、ただのくずじゃないですよ。フレームの底板、誰かが度して雑に留め直してます」
佐藤さんが型のLEDライトで照らしたベッドの奥を覗き込む。 幅センチほどの製の補板が、経劣化で割れた粘着テープでかろうじて固定されていた。 隙から指を差し入れ、ごそごそと探っていた佐藤さんのが、鈍い音をてて止まる。
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「……何か挟まってますね」
引きされたのは、のひらより回りきな、黒いベルベット張りの箱だった。 湿気を吸って表面はく毛羽ち、具は青錆が浮いている。 図して隠したというより、ベッドの隙に滑り落ちたまま、奥の梁に引っかかって何も放置されていたような佇まいだった。
「触らないほうがいいですか?」 私の声が掠れた。臓が嫌なね方をしている。
「いえ、危険物じゃないです。ただ……個の持ち物ですね。私はここまでにしておきます」
佐藤さんが気を利かせて寝のへていく音を聞きながら、私はフローリングのに正座し、震える指先で箱の留めをした。
カチリと乾いた音がして、蓋がく。
に入っていたのは、細のプラチナリングがひとつ、パールのネックレス、そして数枚のL判写真だった。
番にあった写真を見た瞬、喉の奥がカラカラに渇いた。
純のタキシードを着て、悪戯っぽく笑っている男性。 違いなく、私の夫である藤泽健太だった。
隣には、沢のあるサテンのAラインドレスをまとった、細の女性が寄り添っている。 ブーケを胸に抱き、し恥ずかしそうに、けれど誇らしげにカメラを見つめていた。
……は? どういうこと?
のの血の気が気に引いていく。 呼吸がうまく吸い込めない。
健太は私と会ったとき、はっきりとこう言っていた。 「ずっと仕事ばかりで、結婚なんて考えたこともなかった。美咲が初めてだよ、緒に暮らしたいとったのは」
私たちは初婚同士として婚姻届をしたはずだった。 結婚式は挙げず、そのぶん活の資に回そうと提案してきたのも健太だった。
震える指で写真を裏返した。 に、現像の青いデジタル印字と、几帳面な油性ペンの跡が残されていた。
『2022.04.18 居にて』 そのにかれていた所は――京都世田区代沢。 今、私が膝をついている、この部の号だった。
。 私が会うよりものに、夫はこの部で、別の女と「婚活」を始めていた。
箱のに残されていた最の写真を引っ張りす。 背景は、今私がいるリビングだった。 見覚えのあるオーク材のオーダーキッチンカウンターので、ドレスを脱いだ普段着の女性が、真しい真鍮の鍵を両で掲げて満面の笑みを浮かべている。
写真の裏には、黒いサインペンでこう殴りきされていた。
『やっと私のができた。』
背筋を氷でなでられたような悪寒がった。 「の」ではない。 「私の」。
この部は、いったい誰のものなのだ。
清掃代の支払いを済ませ、佐藤さんを玄関で見送ったあと、私は静まり返ったリビングにち尽くしていた。
部を見渡す。 壁面のアクセントクロス、井に埋め込まれたダウンライト、無垢のウォールナットの材。