"意識のない母の家を売る夫、その時病室のベルが鳴った" 第15話
けれど、そんな男の顛末など、今の私たちの活には埃ほどのみもなかった。
母は縁側の子にく腰をろし、庭の々を静かに見つめた。 軒先に吊るされた古い部鉄器の鈴が、の乾いたを受けて、チリン、と澄んだ音を鳴らす。
庭の隅には、今もたわわに実をつけたきな柿のがあった。 オレンジの果実が、青空に鮮やかに映えている。
「……真紀」
母が、膝のにねたをさすりながら、ぽつりと呟いた。
「このいえ、ずいぶん……ふるくなったねぇ」
「……そうね。し、ガタがきてるかも」
「まきから見て……やっぱり、売ったほうが、よかったのかい?」
母はしだけそうに、私の顔を覗き込んできた。 自分のせいで、娘に苦労を背負わせたのではないかという、母の優しさがそこにあった。
私は母の元にしゃがみ込み、その温かいを両で包み込んだ。
「お母さん」
私は首を横に振った。
「これは、お母さんのよ。お父さんとお母さんが、汗流して守ってきたお母さんのよ。み続けたいならめばいいし、放したくなったら放せばいい。決めるのは、お母さん自よ。私に気を使う必も、あのたちの顔を窺う必も、これからは切ないの」
母は目を見張り、それから、子供のようにくしゃりと顔を崩して笑った。
「……そうだねぇ。そうだったねぇ」
母はを伸ばし、私の頬を優しく撫でた。
「じゃあ……もうすこし、ここにいようかね。来も柿が実ったら、奈緒と緒に、もぎにおいで」
「うん。約束ね」
背で、台所からお湯の沸くシュンシュンという音が聞こえてきた。 奈緒が、お祝いのお茶を淹れてくれているのだ。
あの夜。 病院のたい廊で、母が麻痺したで命がけで押した、あのナースコールの子音。
あれが救ったのは、ただの築の古い造なんかじゃなかった。
に値踏みされ、に奪われ、の都で終わらされそうになっていた―― 私たち母娘の、誰にも譲れないそのものだったのだ。
チリン、と。 に乗って、鈴がもう度、誇らしげに鳴り響いた。