"「格下」の同級生に頭を下げる夜" 第15話
「……す、座ってもいいか」
「どうぞ」
桂は浅く子に腰掛けると、テーブルに両を置き、々と額を擦り付けるようにげた。
「藤森夫……本当に、申し訳ありませんでした」
最初に向けられたのは、への謝罪だった。
は微だにせず、元の茶に目を落としたまま、淡に言った。
「桂さん。傷つけられたのは、私ではありません」
桂の体が、びくりとねた。
は顔をげ、男の目をまっすぐに見据えた。
「あなたがをげるべき相を、会社の役職や損得で選ばないでください。そういう浅ましさが、今回の事態を招いたのではありませんか」
桂の顔が、恥辱で赤黒く染まっていく。
男は震える線を、ようやく私へと向けた。
「藤森……悪かった。あの夜は、本当に酒が入っていて、昔の悪ノリの延で……」
「酒のせいにするな」
私はく、だが確な声で遮った。
「おは代、私の弁当を笑い、靴を笑い、が貧しいことを笑った。それは酒のせいか?」
桂は言葉を詰まらせた。
「あの全国会を辞退した、おは私が本番に怯えて逃げしたと言いふらした。それも酒のせいか?」
「それは……昔のことで……」
「昔のことじゃない。おは、私を自分よりのだと決めつけることで、自分のちっぽけなプライドを守ってきたんだ。そして同窓会の夜、私の妻ので『俺よりずっとだった男』と侮辱し、酒を浴びせた。
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おがやったのは、昔の悪ふざけじゃない。のの尊厳に対する、確な暴力だ」
私の声には、気の号はなかった。
ただ、のみを伴った事実の宣告だった。
が横で、痛ましそうに元を押さえている。
桂は額に脂汗を滲ませ、絞りすような声で言った。
「分かった……俺が悪かったよ。全部認める。だから……成制御からの質問状を、何とか取りげてもらえないか? 部に、あれはき違いだったって、言言ってくれれば……!」
どこまでも、自分の保しかなかった。
目ののを傷つけたことへの反省ではなく、失いかけた位にしがみつくための取引。
私はテーブルのに、枚の類を滑らせた。
あらかじめ弁護士ち会いのもとで作成した、だった。
「酒によって汚損されたスーツのクリーニング費用、および名誉毀損に対する慰謝料として、妥当な額を請求する。支払期と振込先はそこにいてある」
桂は類を見つめ、震えるでそれを受け取った。
「払う……払うから、仕事の方は……!」
「仕事の話は、最初から終わっている」
をいたのはだった。
は帳から、成制御の独審査チームが作成した最終報告の写しを取りした。
「審査チームのした結論です。聖産の制御器そのものは、性能に優れており、の技術力もいと評価されました。
したがって、当社は聖産との取引を全面破棄することはしません。条件付きの試験採用として契約をめます」
桂の目が、信じられないものを見るように見かれた。
「じゃあ……契約は、切られないのか……?」
「ええ。ただし、虚偽の納期と仕様を独断で提示した営業担当者――すなわち桂公平氏を本案件から永久に除すること、およびの正規データに基づいた厳格な納期管理をうことが、契約締結の絶対条件です」
桂の呼吸が止まった。
「あ……」
「すでに聖産の営業部からも、その条件を受け入れる旨の正式な回答が届いています。あなたは担当をされ、部への昇もになったと伺っています」
の声は、最まで氷のように澄んでいた。
「私たちは、あなたに復讐するために仕事を使ったのではありません。事実に基づいた正しい取引をうために、嘘をつくを排除しただけです」
桂のから、力が抜けた。
類がテーブルのに力なく落ちる。
会社をクビになったわけではない。からに迷うわけでもない。
だが、この男が何よりも執着し、を見すことで必に守り続けてきた「世」と「虚勢」という名の階段が、度との届かない所へと消えったのだ。
「そんな……俺は……何のために……」
桂が両でを抱え、うめき声を漏らした。
その姿を見つめながら、私は静かにをいた。