"「格下」の同級生に頭を下げる夜" 第8話
千は涙を浮かべながら、まっすぐに私を見つめた。
「私はあなたを虐めてはいない。直接傷つけるような言葉も言っていない。でも、『見て見ぬ振りをした』という点において、私は違いなく桂くんの共犯者だった。そのことを、あなたに謝りたかったの。許してほしいからじゃない。ただ、私はあの教の卑怯な共犯者だったと、あなたに告したかったの」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
許す、許さないという次元の話ではなかった。
千もまた、あの閉塞した教の同調圧力ので、に消えない傷を負ったの犠牲者だったのだ。
「……話してくれて、ありがとう」
私は静かに言った。
「おがそうやって職員にってくれていたこと、らなかった。嬉しかったよ」
千は驚いたように目を見き、それから堪えきれずにぽろぽろと涙をこぼした。
バッグからハンカチを取りし、何度も目元を拭う。
しの、私たちは無言でお茶をんだ。
痛みを共した者同士のに流れる、静かで穏やかなだった。
やがて千は落ち着きを取り戻し、バッグのファスナーを閉めながら、ふといしたように私を見た。
「そうだ……藤森くん。田先のことなんだけど」
「先が、どうした?」
「先、昨の同窓会にも来ていたでしょう? 途で体調が優れないからって、あなたが帰るに先に退席されたけれど……」
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千はし躊躇うように、声を落とした。
「先、ずっとあなたのことを気にされていたのよ。この、域の集まりで私の実のくを通るたび、私の母に『藤森は今どうしているか』って尋ねていたらしいの」
私の眉がいた。
「先が……?」
「ええ。特に……あなたがのに、全国技術競技会を辞退したことについて、先はずっと悔されているみたいだった。『俺の対応が違っていた』って……」
の奥を、鈍器で殴られたような衝撃がった。
全国技術競技会。
の、私が学の代表として選ばれながら、会の直になって自らを辞退した、あの来事。
桂は同窓会の席で、それを『本番が怖くなって逃げした』と嘲笑った。
だが、あの辞退の裏にあった本当の理由をっているのは、私と、当の担任だった田先のだけのはずだった。
なぜ、先がそれを悔しているのか。
先はあの、私の庭の事をったで、私の選択を受け入れてくれたはずではなかったのか。
「先の連絡先、ってる?」
千が尋ねてきた。
「いや……らない」
「私、幹事の名簿を持ってるから、先の話番号をLINEで送るね。先、あなたにずっと会いたがっていたから」
千と別れ、私はの夕暮れのをで歩いた。
たいがコートの裾を揺らす。
駅へ向かう波ので、私の考はのあのへと引き戻されていた。
父をくし、病気の母と学の妹を抱え、毎放課になると油の匂いが染みついた町へ自転をらせていた々。
きるために、必だった。
や希望を語る余裕などどこにもなく、ただを乗り切ることだけを考えていた歳の自分。
自宅に着いたのは、午を回った頃だった。
玄関のドアをけると、ばしい汁の匂いが漂ってきた。
「おかえりなさい、誠」
キッチンから顔をしたが、私の顔を見てふっと表をらげた。
「寒かったでしょう。今、お鍋の準備をしてるの」
「ああ……ありがとう」
コートを脱ぎ、リビングのソファに腰掛ける。
スマートフォンを取りすと、千から田先の話番号が届いていた。
画面に表示された桁の数字を見つめる。
発信ボタンを押すべきか、迷いがじていた。
今更、の過を掘り起こして何になるのか。
私はもう、成制御の技術責任者として自分のでっている。誰かに過を慰めてもらう必など、どこにもないはずだ。
だが、千の言った言葉が、の奥かられなかった。
『先はずっと悔されているみたいだった』
そのだった。
ののスマートフォンが、突如として激しい振を始めた。
画面にったのは、登録されていない固定話の番号。
局番は、私の元――あのがある域の番号だった。