"レジで3860円を払ってくれた男は、巨大企業の会長だった" 第8話
もう借はなく、これから会うのは自分のだという違いが何より切だった。
曜の夕暮れ、宮連は桜町商の入にっていた。濃紺の着にいシャツという飾らない装で、約束の15分には到着していた。やがてい茶の着を着た咲がし息を弾ませて歩いてきた。
「よかった。く着くつもりだったのに駅でし迷ってしまって」
彼女の笑顔を見た瞬、連は今ここへ来てよかったとった。は並んで商を歩き、奥にあるさな堂の引き戸をけた。
温かい湯気と醤油の匂いが迎える、厨から主の沢千代が顔をした。
は決して広くなかったが、磨き込まれたの机と、壁に並ぶきの献がどこか懐かしい雰囲気を作っていた。
窓際にはさな瓶が置かれ、のには傘を拭く布が入に用される。咲は現調査の帰りに何度もち寄り、千代から野菜の煮物をしめに盛ってもらったこともあった。
連がこうした所を気に入るかもあったが、級では自分まで背伸びをしてしまう気がした。今は会と社員のような関係ではなく、ただ緒に事をするでいたかった。
咲が連を紹介すると、千代は目を細めてを窓際の席へ案内した。
連は壁にかかった古い写真や入れされた柱を眺め、落ち着く所だと素直にじていた。
広告
は千代の煮魚定を注文し、料理が運ばれてくるまでの、咲の仕事の話になった。
古い建物の調査記録を理しているという咲に、連は現でつずつ違いを確認するのかと尋ねた。咲はな仕事だが、そこを省くと切なことを見落としてしまうと真剣な表で答えた。
「君たちが確認した内容を俺たちは信じて判断するんだな」
連の言葉に咲は頷き、だからこそ違った報をけば誰かが違った判断をしてしまうのが怖いとかした。自分が確認していないことを確認したようにはきたくないという彼女の言葉に、連の胸に静かな敬がまれた。
事がむにつれ、の会話は自然になっていった。咲の子供の頃の話や、連が習い事に追われていた話など、のない会話で連は声をげて笑った。
「宮さんにも、そんな失敗があるんですね」と咲が目を丸くすると、連は昔、習い事の帰りにを乗り違えた話を続けた。
迎えを頼めばすぐに帰れたのに、になって自分で線図を調べ、結局に着いた頃には夜になっていたという。
咲は笑いながらも、そののが誰にも迷惑をかけまいとで頑張っていたことに気づいた。連もまた、咲が現で作業のまま昼を買いにき、員に事の職と違われた話を面そうに聞いた。
互いのを説するためではなく、ただりたいから尋ねる会話が続いた。会議では見せない表が、彼女のでは何の努力もなく現れるのだった。
、お茶を運んできた千代が、最商で再発の噂が広まり配しているがいとこぼした。咲は調査なので詳しいことは話せないと慎に答えながらも、自分の報告が々の未来に関わる責任のさをじていた。
千代はいこの所でを続け、親の代から通っている客もいると言った。の壁に残ったさな傷には、子供だった常連が背を測った跡もある。
もし本当に建物が危険なら、移転や改修を考えなければならない。それは千代も理解している。しかし理由も分からないままにはてけと言われたら、どこへけばいいのか。
彼女が笑顔の奥に隠したは、咲が調査票ので扱ってきた数字の向こうに、の活があることを改めて教えてくれた。
千代が厨へ戻ると、連は桜町の再発に自分のグループも関わっていることを打ちけた。咲は驚いたが、自分は調査に関わるとして確認した事実だけを報告すると真っ直ぐに伝えた。
連もまた、君の仕事にをすつもりはないと経営者としてのみを持って答えた。
会計の、咲がご馳しようとしたが連は自分の分を払うと譲らなかった。