"五十七回の夜と、四十七枚の告発" 第6話
続いて、荒い呼吸音とともに、製のドアがドンドンと乱暴に叩かれた。
「! 、にいるんだろ!」
健の声だった。私はベッドの端に腰掛けたまま、指先つかさずにドアを見つめた。
「、にいるのは分かってるんだ! ドアをけてくれ! 頼むからし話そう!」
彼の声は激しく息切れしており、階段を全速力で駆けがってきたことが窺えた。
彼はどうやってこの所を突き止めたのだろうか。このアパートの契約は私でめ、実の両親や親しい友にも部番号までは伝えていなかったはずだった。
……そうか、スマートフォンのメモ帳だ。契約類を交わした、所と部番号を端末のメモアプリに打ち込んでおいたのだった。彼はおそらく私の留守にクラウドのアカウントにアクセスし、メモを漁ったのだ。
「……」
ドアの向こうで健の声のトーンが段くなった。それは、かつて私を言いくるめるときに彼がいつも使っていた、猫撫で声のような柔らかい調子だった。
「とりあえずドアをけてくれよ。おがるのも無理はない。あの張り、俺が全部剥がしてきたからさ。枚残らず綺麗に片付けたからしろ。な? 何事もに帰って、落ち着いて話そう」
『全部剥がした』。その言葉がにび込んできた瞬、私の胸の奥で何かがたく凍りつき、それ以何のも湧きがらなくなった。
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昨夜、たいで膝を抱え、震える指で墨をすり、夜けの気ので枚ずつ壁に押し当てていった私の痛切な告発を、彼は「恥ずかしい悪戯」としてゴミ箱へ捨てったのだ。
「、俺の声が聞こえてるんだろ? 返事くらいしてくれよ」
私は唇を真文字に結び、切の返答を拒絶した。ベッドのシーツを両でく握りしめると、爪がのひらにくい込んだ。
ドアのが数秒静まり返った、健がく呟いた。
「話したくないなら、無理に今すぐ話さなくてもいい。俺はここで待つよ。おの気が済むまでドアので待ってるから、落ち着いたらけてくれ」
『気が済むまで』。その傲な言葉の響きに、私はドアの目をく睨みつけた。
ペンキがところどころ剥がれ落ちた古い製ドアの郵便受けのスリットから、廊の暗いが筋だけ部のに差し込んでいた。
彼はそのの向こう側にち、私が過の回と同じように折れ、鍵をけ、しく彼のをついて自宅へ戻るのを待っているのだ。
そして再び加亭の厨の気のに戻り、スープのアクを取り、板メニューのを守り続ける「従順な女将」に戻ることを、疑いもなく信じ切っているのだ。
シーツを握りしめていた私の指先から、ゆっくりと力が抜けていった。
私は横たわり、掛け布団をのてっぺんまで引き被って目を閉じた。
の音はちる気配を見せず、数歩うろうろとを踏み鳴らしたあと、再びドアのに止まった。やがて、ドアの表面に背をもたせかける鈍い音が響き、苦しいため息が聞こえてきた。
そのわざとらしいため息の音は、まるで当な仕打ちを受けて被害者になっているのが自分自であるかのように響いていた。
私は布団ので体をさく丸め、洗いたてのシーツから漂う成洗剤の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。それは価な柑橘系のりで、自宅で健が好んで使っていた級な柔剤の匂いとはまったく異なっていた。
この部をえるために所のスーパーへったとき、棚の隅に置かれていた番い洗剤を選んだのだった。慣れない匂いだったが、なくとも彼のをじさせないだけ、私にとってはよかった。
突然、ドアので子音が鳴り響いた。健が所持しているスマートフォンの着信音だった。
擦れの音がして、彼がドアから体をし、階段の方へと数歩移する音が聞こえた。彼は声を極端に潜めて通話に応じたが、い壁を隔てた私には、その言葉の断片が瞭に届いた。
「……結か。そんなに焦るな。俺が全部うまく処理するから。
おはとりあえず、のバイト連の止めだけしっかりやっておけ。