"家族はすき焼き、義姉だけが台所で水かけご飯を食べていた" 第4話
あの、すき焼きを囲みながら向けられた義母の笑顔。
「族になったんだから」
「共働きでしっかり計を支えて」
あの甘ったるい言葉の裏側にあった、酷な計算。
私はされて迎えられたのではなかった。
逃げを塞がれた状態で、都よく息子の過を、そしてこれから発するであろう責任を肩代わりさせるための「都のいい駒」として、罠に嵌められたのだ。
「私は……許せませんでした」
真帆さんの頬を、筋の涙が伝った。
「自分が、あのに嫁いできてから、ずっと同じように扱われてきたから。お義母さんの言う通りに黙って、耐えて、都のいい雑用係にされて……。遥さんまで、同じ目に遭わせるわけにはいかないとった。でも、私はあのでお義母さんに逆らえなくて……携帯も自由に見張られていて、あなたに直接連絡する段がなかった」
だから、今のあの席だったのだ。
正式な挨拶の。
私が初めてあのに来る。
「今、あので私がたいご飯をべていたのも、お義母さんからの見せしめです。『余計なことを喋ったら、このでの居所はないといなさい』って、朝からすき焼きの席に入ることを禁じられていました」
喉の奥が引き攣れた。
りなのか、絶望なのか、自分でもわからないが全の血液を沸騰させていく。
広告
のをそこまで尊厳ごと踏みにじりながら、居では何わぬ顔で等な肉をつつき、笑いっていたあの族。
そして、そのでヘラヘラと笑っていた、私の夫。
「由さん」
私は震える声を抑え、目のの女性を見据えた。
「話してくださって、ありがとうございました」
由さんはし驚いたように目を見張り、それから痛ましそうに眉を寄せた。
「責めるつもりは、ありませんでした。ただ……自分の父親が、しい奥さんに嘘をついて、逃げるように庭を作ろうとしていることが、どうしても許せなかったんです。悠斗のを、なかったことにされるのが……」
「当然です。あなたがるのは、当たりです」
ちがった私の脚は、りで微かに震えていた。
けれど、のは信じられないほどえ切っていた。
しくて泣く段階は、とっくに通り過ぎていた。
私のに残っていたのは、踏みにじられた自分のと、選択する権利を奪われたことに対する、底れないりだけだった。
「遥さん、どうするの……?」
真帆さんがそうに見げてくる。
「戻ります」
く答えた。
「あのに、戻ります。まだ、挨拶の途ですから」
瀬までの帰り、夕暮れのたいがを包み込んでいた。
灯がぽつぽつと灯り始め、宅の窓からは温かそうな庭のかりが漏れている。
わずかまで、私もその「温かい庭」をに入れたのだと信じ込んでいた。
入籍して。
名を変え、職に届けをし、これからで歩んでいくのだと疑わなかった々のすべてが、元から音をてて崩れっていく。
瀬のをくぐり、玄関の引き戸にをかける。
すき焼きの甘辛い匂いは、まだ廊に充満していた。
靴を脱ぎ、居へと続く廊を歩歩踏みしめる。
板の軋む音が、妙にに障った。
引き戸をける。
「あ、遥。おかえり。薬、買えた?」
コタツに入り、テレビのバラエティ番組を見ながらみかんを剥いていた直が、屈託のない笑顔で私を振り返った。
その隣では義兄が横になり、義母が満そうにお茶をすすっている。
誰も、何も変わっていない。
私がすべてをったことなど、ほどもっていない、無邪気で残酷な「族の団欒」。
私は敷居をまたいだまま、靴を履いたにぐっと力を込めた。
「直」
私の声のさに、直のが止まる。
みかんの皮を持ったまま、議そうにこちらを見げた。
「ん? どうしたの、そんな怖い顔して」
義母も湯呑みを置き、眉をひそめた。
「どうしたの遥さん、寒かったのかしら。くコタツに入りなさいな」
その言葉を完全に無して、私は夫の目を真っ直ぐに見据えた。
線を逸らすことすら許さないように、たく、はっきりと告げる。
「直。私に、隠していることがあるでしょう」
居の空気が、ぴたりと止まった。