"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第17話
夫は通りに刈の自宅をていき、名鉄線沿いの筋裏にある、築の単者向けアパートで暮らし始めた。物流センターの現で慣れない作業着を着て、伝票と段ボールに追われる々を送っているらしい。与細から毎引かれるローンの返済と、私の座への万円の送。そして、容赦なく押し寄せる義母からの無。
『健太郎、しでいいからお遣いを送ってちょうだい』そう縋りつく義母に対し、夫はついに自分ので言ったそうだ。『俺の料じゃもう無理だ。自分のので暮らしてくれ』と。
夫が私のカードという無限の財布を失い、自らの肉を削る痛みに直面して初めて、義母と息子の共依の鎖は、自壊するように軋み始めていた。だが、その景のに、私の居所はもうどこにもない。私はとっくに、その沼の側へと抜けしていた。
の曜。抜けるような青空が広がった午。
私はの旧沿いにある、入れのき届いたさな本の簾をくぐった。入れされた坪庭が見える、全席のさな割烹料理。
「いらっしゃいませ、佐伯様。お待ちしておりました」
割烹着姿の女将が、柔らかな笑顔で迎えてくれる。奥の掘りごたつの個には、すでに懐かしい顔が揃っていた。
私の両親。
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私の弟夫婦と、学になるの甥。そして、私の女の未来と、息子の正太。
全部で、ちょうど。
派な屏も、壇のマイクも、見栄を張るための乾杯の挨拶もない。ただ、季節の寸からちる汁のりと、気兼ねのない笑い声だけが、部を満たしていた。
「おじいちゃん、これ弟と選んだんだよ」
息子の正太が差ししたのは、元の老舗茶の等な抹茶と、使いやすそうな湯呑みのセットだった。娘の未来も、自分で焼いたパウンドケーキを照れくさそうに渡している。
「修さん、70歳を過ぎてからの方が、なんだか若返ったんじゃない?」
弟の嫁が笑うと、父は髪の混じったを掻きながら、本当に嬉しそうに目を細めた。
「そうか? 所の刃物研ぎばかりやってるから、腕の筋肉だけは落ちんがな」
母がバッグから、褪せた古いアルバムを取りしてきた。テーブルのに広げられた枚の写真。、まだ油の匂いが染み付いていたさなプレハブので、作業着姿の若い父が、歳そこそこの私と並んで写っていた。
父はその写真を、節くれだった親指でそっと撫でた。
「俺はな」
父がぽつりと言った。部の笑い声が自然と収まり、みんなが父の言葉にを傾ける。
「若い頃は、男の甲斐性ってのは、でどれだけきな顔ができるかだとってた。
いいに乗って、勢に酒を奢って、脈が広いと尊敬されるのが、の男の証拠だと信じ込んでいた」
父は湯呑みにを添え、ふっと自嘲するように微笑んだ。
「だがな、を過ぎて、ようやく分かったよ。……番難しいのは、のをさせることじゃない。のにいるを、させることだ」
父の線が、真っ直ぐに私に向けられた。
「でどれだけをげられようと、自分のにいる切なを泣かせるような奴は、職としても、男としても、落第だ。……真由美、おはよく、自分ので踏みとどまったな」
胸の奥が、いもので満たされていくのが分かった。涙はなかった。ただ、静かで、揺るぎない温かさが、全の血を巡っていくような覚だった。
宴はほどで、穏やかに、誰として嫌な顔をすることなく幕を閉じた。
座敷をて、みんなが玄関先で靴を履き、初のよいに吹かれながら談笑している隙に、私は、帳へと向かった。
カウンターの奥から、主が伝票を差ししてくる。
「佐伯様、本のご会代でございます」
示された額は、分の季節の会席料理と、しのお酒。万円をわずかに超える、極めて適正で、朗な数字だった。
「お支払いは、こちらでよろしいですか?」
女将が丁寧にお辞儀をしながら、カードリーダーを指し示す。
私は迷わず、バッグから自分のクレジットカードを取りした。あの、あのホテルの広いロビーで、震えるで差ししたのと、全く同じ黒いカード。
私は主に、しっかりと笑いかけた。
「はい。今は私が払いたくて、みんなを呼んだので」
「ありがとうございます」
端末にカードが差し込まれ、さな子音がピピッ、と澄んだ音をてて鳴り響いた。
同じようにカードをしたのに。あのとは、まるで違う気持ちだった。
押し付けられた見栄の穴埋めでもなく、誰かの顔を窺うための代償でもなく、奪われるための支払いでもない。
私のおを。私ので。私がから切にうたちのために使う。
それだけの、あまりにも当たりで、あまりにも尊い権利を。私は24の暗の果てに、ようやくこののに取り戻したのだ。
の簾をくぐると、初の夕暮れの空が、どこまでもく、美しく茜に染まっていた。振り返った父と母が、私を見て、穏やかにを振っていた。