"6年間の節約生活、夫にとっては「庶民ごっこ」だった" 第14話
送信ボタンを押し、トーク画面を閉じた。 これで、あの夜のすべての残骸が、綺麗に片付いた気がした。
約束の半が経った週末。 私たちは、関内にあるイタリアンレストランのテラス席で向かいっていた。
夫は、紺のジャケットを着ていた。 以のような、の目を気にして無理に着せられたような違はなかった。 肩幅に自然に馴染む着。 テーブルのに置かれたは、相変わらずゴツゴツと分く、指先には焼けとさな擦り傷があった。
「昇したんだってな」
夫が、照れくさそうに笑った。 その笑顔には、以のような過剰な卑屈さも、すべてを背負い込もうとする気負いもなかった。
「織さんから聞いた。……本当におめでとう、彩乃」
「ありがとう。……そっちは? 現はどう?」
「先週から、本の古い建築の基礎調査に入った」
夫はグラスのを含み、現の話を始めた。 正代に積まれたレンガの目がどれほど精巧か。 現代のセメントと当の漆喰をどう調させるか。 京と埼玉の資材を往復しながら、職たちと鳴りい、図面を引き直す々のこと。
その瞳は、ききと輝いていた。 御曹司としての圧から逃げるための現ではなく、自分が命を懸けて守りたい仕事として、現にっている男の目だった。
事が終わり、コーヒーが運ばれてきた。
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夫が着の内ポケットから、冊のいノートを取りした。
「これを見てほしい」
かれたページには、細い文字で几帳面にスケジュールがき込まれていた。 向こうヶの、夫の現ち会い、張予定、本社での会議程。 そして、その横には夫の個座の収支と、プロジェクトから支払われる々の報酬額が、円単位で記録されていた。
「これからの予定と、俺の個な収入だ」
夫はノートを私のに差しした。
「全部、事に共する。隠し事は度としない。……それから、まいのことだけど」
夫は私の目をまっすぐに見つめた。
「横浜で、で暮らせる部を探さないか。 賃は、今の互いの収入比率にわせて、無理のない範囲で完全に折半する。 敷も礼も半分ずつだ。 具も、今あるものを使って、りないものはで相談して買いしたい」
夫の喉仏が、緊張でいた。
「もう度、俺の妻になってほしい、とは言わない。 ただ……の共同活者として、同じさの目線で、横に並んで歩いてくれないか」
私は、差しされたノートを見つめた。 几帳面な字の並びに、夫の器用な誠が滲んでいる。
この半、で暮らしてみて分かったことがあった。 私は、夫のがなくてもきていける。 自分のでち、自分の力でキャリアを築き、自分の稼ぎで温かいスープをめる。
夫がいなければきていけないような、かいでは最初からなかったのだ。
そして同に。 夫がに入れた富や柄を抜きにしても、私はあのがレンガを見つめる真摯な横顔を、どこかでずっとしていたのだということにも、気づいていた。
「……条件があるわ」
私がをくと、夫の体がピクリと張った。
「何だ? 何でも言ってくれ」
「計の管理は、私がやる。毎の固定費と積額を算して、あなたには割り当てた額をきっちり入れてもらうわ。あなたの創業の資産がいくらあろうと、私たちの庭のには円も持ち込ませない。私たちがべるもの、む所は、で稼いだだけで賄うこと」
「ああ、もちろんそうする」
「それから、もうつ」
私はコーヒーカップを置き、夫の目を射抜くように見つめた。
「仕事のことできな決断をするは、決定事項として報告するんじゃなくて、迷っている段階で相談すること。……『配』なんて言葉、度と使わないで」
夫の目から、ふっと力が抜けた。 目尻に、くしゃりと皺が寄る。
「……分かった。絶対に、約束する」
その目には、涙が滲んでいた。 けれど、もうテーブルに突っ伏して泣くことはなかった。 のの男として、しっかりと私の線を受け止めていた。
しい部は、楽の静かな宅にある、築のマンションだった。
2LDK、賃は万円。 万円ずつ、毎それぞれの座から引き落とされるように設定した。