"6年間の節約生活、夫にとっては「庶民ごっこ」だった" 第4話
嘘ではなかった。 あのについたタコも、い傷跡も、毎クタクタになって帰ってくる姿も、すべて本物だった。 職としての夫の矜持は、違いなく本物だった。
だが。
「……それは分かった」
私は乾いた唇を湿らせた。
「あなたのき方を、否定するつもりはない。派だとう。……でも、どうして私に言わなかったの? 結婚する、どうして全部隠したの?」
「怖かったんだ」
夫が顔をげた。 その目には、本物の怯えのがあった。
「俺のや、持っている株のをった途端、態度を変えるばかり見てきた。学代の友も、かつての恋も、最は俺じゃなくて『森川』を見ていた。……彩乃だけは、作業着の俺を、何もない俺を好きだと言ってくれた。彩乃が変わってしまうのが、怖かったんだ」
沈黙が落ちた。
部の隅で、蔵庫のモーターがく唸りをげている。 夫の言い分は、きっと世には「理解できる理由」なのだろう。 お目当ての女を警戒した。純粋なを守りたかった。
けれど。
「私が変わるのが怖かった?」
私のから、たい笑いが漏れた。
「じゃあ、あなたは考えなかったの? もの、番くにいるから嘘をつかれ続けていたとった私が、今、どう変わってしまうかは考えなかったの?」
夫が息を詰まらせた。
「あなたは私を守ったんじゃない。自分が傷つかないために、私から真実を選ぶ権利を奪ったのよ」
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「彩乃……」
「私はね、蒼太さん」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「おがないから、あなたをしたんじゃない。嘘をつかないだとったから、信じたの」
夫は返す言葉を失い、ただ唇を噛み締めていた。
だが、私のに突き刺さっていた棘は、それだけではなかった。 あのホテルのロビーで、久世会がにした言葉。 あの瞬、夫が見せたらかな揺。
「……もうつ、答えて」
私はテーブルのに両を置いた。
「久世会が言っていた『先の件』って、何?」
夫の肩が、びくりとねた。 線が泳ぎ、私から逃げるように斜めの畳へと落ちる。
「……何でもない。ただの、仕事の相談だ」
「嘘をつかないで!」
今夜初めて、私の声が荒げられた。 壁に反響した自分の声に、喉が震える。
「何でもない話なら、あんな所で会がをげてまで催促するわけがない! 答えて。私に言えないことなの? 妻である私に、隠さなきゃいけないことなの!?」
部のの空気が、張り詰めた糸のように極限まで張り詰める。
夫はい、痛ましいほどの沈黙のあと、ゆっくりと息を吐きした。 その顔には、隠しきれなくなった罪悪が濃くを落としていた。
「……会社から、戻ってきてほしいと頼まれている」
「……は?」
「都の歴史建造物を巻き込んだ、規模な再発事業がある。現と経営の両方を理解しているとして、統括責任者に就任してほしいと、役員会から請を受けている」
のが、真っになった。 現の職ではなく、千億企業の幹部として、本社に戻る。 それは、私たちの活が、む所が、々ののすべてが、根底から覆ることをしていた。
「いつから……」
震える声で、私は問うた。
「その話、いつから始まっていたの?」
夫はうつむき、度と戻らない沈黙を破るように、いをいた。
「……ヶだ」
私の喉から、乾いた空気のような掠れ声が漏れた。
ヶ。。 記録な猛暑が続いていたあの頃、私は何をしていたか。
毎晩、エアコンの設定温度を度げるかどうかで夫と笑いっていた。 古いアパートの気代の請求を見て、ため息をつきながら、スーパーでは百円いプライベートブランドの米を選んでいた。 夫が現でむ麦茶を、いいをしてドラッグストアから箱、売りのに両で抱えて運んでいた。
その同じに、夫は何をしていたのか。
「……何回、話をしたの?」
「役員会とは回。久世会とは、個別に回ほど会った」
夫は畳の点を見つめたまま、逃げることなく、だがい声で答えた。
「戻るって、決めたの?」
「まだ正式な返事はしていない。役員たちには、考えるがほしいと伝えてある」
「私に、言も相談せずに?」
夫が息を呑む音が聞こえた。 夜の静まり返った部ので、その呼吸の乱れだけが痛いほど々しい。