"新調した下着と消えた八百万円" 第8話
澪は迷うことなく、それを広の央にあるきな座卓のに、トランプを配るように勢いよく滑らせた。
バササッ、と乾いた音が座敷に響いた。
写真が卓のに散らばった。 横浜のホテルで倉田奈緒の腰を抱き寄せる貴之。 ホテルのベッドルームのかりので、抱きうの姿。 目黒のマンションのエントランスで、鍵を使って入りするの決定な瞬。
「……な、何だこれは!?」
最列に座っていた親戚の老が、写真を覗き込んで絶句した。
「貴之……!? これ、あなたなの!?」
節子の顔から、瞬にして血の気が引いていった。
広全体が、まるで氷を浴びせられたかのような静寂に包まれた。 貴之の顔は、信じられないものを見たかのように歪み、瞳孔が限界まで見かれていた。額から滝のようなや汗が噴きし、喉がヒクヒクと痙攣していた。
「み、澪……お、何を……これは、何かの違いだ! 誰かの罠だ!」
貴之は取り乱し、に散らばった写真を慌てて両でかき集めようとした。その無様な姿に、周囲の来客たちは歩、また歩とずさり、軽蔑に満ちた線を向けた。
「違いではありません」
澪は鞄から、もう通の類を取りした。
「そちらに写っているのは、元部の倉田奈緒さんですね。あなたが目黒に額万円で借り与えている部の賃貸契約、および、私たちの共財産の定期預座から無断で引きされた百万円の使途細の写しです」
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澪は弁護士が作成した類の束を、貴之の元に酷に落とした。
「さらに、倉田奈緒さんご本にも、先ほど私の弁護士から慰謝料請求通が内容証で送達されました。彼女はすでに貞の事実を全面に認め、あなたから『妻とは庭内別居で、もうすぐ遺産が入るから婚して結婚する』と聞かされていたと証言しています」
「な……っ!?」
貴之のから、掠れた鳴が漏れた。
「貴之! 本当なの!? あなた、こんな……こんな浅ましいことをしていたの!?」
節子が取り乱し、息子の肩を掴んで激しく揺さぶった。 息子の世と完璧な庭を誇りにしてきた節子にとって、親族や鎮たちので繰り広げられたこの景は、ぬよりも耐え難い屈辱だった。
貴之は母のを振りほどき、いつくばるようにして澪の元へにじり寄ってきた。
「澪……待ってくれ! 頼むから、ここでこんな話をするな! 話しおう! 俺が悪かった、魔が差したんだ! おをしてるんだ、澪!」
必にすがりついてくる夫を見ろしながら、澪のには、片の揺らぎもなかった。
している? どのがそれを言うのだろう。
「貴之さん」
澪は氷のようにたい声で、最の言を告げた。
「『疲れたから今くのやめよっか?』――覚えてる?」
貴之がピクリと体を張らせ、虚を突かれたように顔をげた。
「あなたが何気なく捨てったあの、あの夜にね、私たちの夫婦は完全にんだのよ。
あなたが守りたかったのは私じゃない。族でもない。ただの自分の世体と、保だけ」
澪はバッグから、すでに署名と捺印を済ませた緑の用――婚届を取りし、貴之の胸元に突きつけた。
「とは売却して財産分与と慰謝料に充てます。会社の役員の方々にも、、弁護士を通じて正式にこの事実と横領同然の資移の報告が提されます。……さようなら」
澪は踵を返した。
「待て! 澪! かないでくれ! 澪ーーッ!」
背で響き渡る貴之の無様な絶叫と、節子の泣き叫ぶ声、親戚たちの罵声のすべてを背に受けながら、澪は度たりとも振り返ることなく、な玄関の引き戸をけ放った。
には、突き抜けるようなの青空が広がっていた。
頬を撫でるが、驚くほどよかった。 胸の奥に澱のように溜まっていた苦しい塊が、完全に消えっていた。
それから、半が過ぎた。
都内の静かな宅にある、築浅のワンルームマンション。 向きのきな窓からは柔らかなの陽がり注ぎ、無垢材のフローリングのに、しく買い揃えた欧のローテーブルと観葉植物がよいを落としていた。
澪は、淹れたてのアールグレイの湯気を吸い込みながら、窓のを見つめていた。