"新調した下着と消えた八百万円" 第7話
澪がスーパーで数円の特売品を選び、古くなった着を捨てられずにためらい、を決して買った数千円のレースのランジェリーに怯えていたその裏で。 夫は、若いのために目黒のマンションを借りげ、数百万円のを湯のように注ぎ込んでいた。
そして、妻には「疲れたから今くのやめよっか?」と、酷な拒絶を突きつけていたのだ。
「奥様、丈夫ですか」
川が配そうにを乗りしてきた。
澪は、ゆっくりと顔をげた。 議なことに、涙は滴もなかった。 あのスーパーの駐で流した涙が、彼女のにおける最の涙だったのだ。
胸のに広がっていたのは、しみではなく、絶対零度の静かなりだった。 自分を蔑ろにし、女としての尊厳を踏みにじり、汗垂らして貯めたを奪い、母親ので恥をかかせた。そのすべての報いを、寸の狂いもなく、完璧な形で支払わせなければならない。
「……川さん」
澪の声は、澄み切っていた。
「婚の準備をめます。弁護士を紹介してください。徹底に、逃げをなくすやり方で」
紹介された弁護士は、女性問題と財産分与を専とするベテランの女性弁護士だった。 彼女は報告と座記録を瞥するなり、「完璧な証拠です。これなら、言い逃れは切できません」と太鼓判を押した。
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「あとは、いつ、どのように突きつけるかです。奥様、どうされたいですか?」
澪は帳をき、つの付を指差した。
「来週の曜、夫の昇祝いを兼ねた、義理の実での親族パーティーがあります。親族だけでなく、夫の会社の役員である義父の元同僚たちも集まる予定です」
弁護士は鏡の縁を押しげ、徹な笑みを浮かべた。
「……番、効果な台ですね」
決のまでの数、澪は完璧な「従順で献な妻」を演じ続けた。
毎朝、貴之のスーツにブラシをかけ、栄養バランスを考えた朝を並べ、笑顔で送りした。貴之が夜遅くに帰宅し、「仕事が忙しくて」と嘘をついても、「体に気をつけてね」と優しく労った。
貴之は完全に油断しきっていた。 澪がすべてをっているなどとはにもわず、むしろ「最の澪は物分かりが良くなった」と満げですらあった。自分の嘘が完璧に能し、妻を完全に玉に取っていると信じ込んでいたのだ。
そして、運命の曜が訪れた。
鎌倉の結本邸の広には、貴之の昇を祝うために、数の々が集まっていた。 貴之の父の代からのである建設業界の鎮たち、親戚同、そして得満面の節子と美咲。
主役である貴之は、仕ての良い真しいスーツにを包み、グラスを片に客たちと談笑していた。
「いやあ、篠原君のところの息子さんは優秀だ。今回の型再発プロジェクトでも、構造のリーダーに抜擢されたそうじゃないか」
「ありがとうございます。これも偏に、皆様のご指導のおかげです」
をげる貴之の姿は、途々たるエリート技術者そのものだった。 節子が着物の袂を押さえながら、誇らしげに周囲へアピールする。
「本当に、親孝な息子でして。これも庭がしっかりしているからこそですわね。ねえ、澪さん?」
節子が座敷の隅で料理を運んでいた澪に、当てつけのように声をかけた。
澪は静かにちがり、トレイを脇に置いた。 着慣れたシンプルな濃紺のワンピース。背筋をすっと伸ばし、歩歩、広の央へと歩みをめる。
「ええ、お義母様。本当に、素らしい夫です」
澪の声は、広の喧騒をすっきりと切り裂くほどに通っていた。 々が会話を止め、澪の凛とした佇まいに線を向けた。
貴之が微かに眉をひそめ、「澪、どうしたんだ急に?」と声で尋ねてきた。
澪は夫の目を、まれて初めて見るほど真っ直ぐに見据えた。 そして、バッグのから、分い茶封筒を取りした。
「貴之さん、昇おめでとうございます。私からも、お祝いの品を用しました」
「え……? プレゼントなんて、ででければいいのに」
貴之が照れ笑いを浮かべながら封筒を受け取ろうとした瞬、澪はそのをかわし、封筒の紐を解いた。
から取りされたのは、数枚に及ぶ鮮なカラー写真の束だった。