"赤字物件と笑う夫、毎月9万の裏口座" 第9話
直さんはね、婚におがに迷わないよう、私の会社を通じて格で買い取ってくれる業者を必で探してくださったの。解体費用だって何百万もかかるんですよ? それを全部免除して引き取ってくれるなんて、奇跡みたいな条件なんです」
流れるような。 もっともらしい専用語を並べて、素を煙に巻いて恐怖を植え付ける、悪質な産業者の常套段。
直がそれに調子をわせ、勝ち誇ったように腕を組んだ。
「聞いたか、恵理? 麻さんは産のプロなんだよ。俺たちはおのためにをげて回ってやってんだ! 佐野のだってそうだ。あんな違法まがいの賃で居座られてたら、ビルの資産価値ががる方なんだよ。だからく追いして、更にして放すのが番なんだ。分かったら、昨の売却承諾をせ。今すぐサインしろ!」
がかりの威圧。 普通の主婦なら、専用語と賠償という言葉に怯え、泣き寝入りしてペンをらせていたかもしれない。
だが、私のバッグのには、さっき佐野さんから受け取ったばかりの決定な束が入っている。
私はく息を吸い、バッグのファスナーをけた。
「……佐野さんの賃が、違法まがいの賃?」
「あ? そうだろ、あんなボロに数万の端——」
「9万円よ」
私の静かな声が、直の声を遮った。
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直の喉が、ヒュッとさく鳴った。
「共益費込みで、毎9万円。108万円。5で540万円」
私はバッグから、佐野さんの通帳のコピーを1枚引きし、直の目のに突きつけた。
「振込先は、埼玉みらい信用庫、川央支。座名義は、ミウラナオキ。……直さん、これ、誰の座?」
直の顔から、さっと血の気が引いた。
目を見き、魚のようにをパクパクとかす。 さっきまで威勢よく鳴り散らしていた男が、切れ1枚をにして、文字通り凍りついていた。
「な……な、んで……それ……」
「あなたが私に見せていたの収支報告、全部デタラメだったのね。佐野さんが毎度も欠かさずに振り込んでいた賃を、あなたは裏座に隠して全額着していた」
「ち、違う! それは……!」
「さらに、あなたが私から騙し取った修繕費の20万円。配管破裂の修繕費42万円を特別損失として計していたけれど、実際は佐野さんが自腹で30万円払って直していたわ。あなた、円もしていない」
「恵理、待て! 話を聞け!」
直が狼狽してを伸ばしてきたが、私はそのを鋭く払いのけた。
隣にっていた泉麻の表からも、先ほどの余裕が完全に消え失せていた。 唇を噛み締め、忌々しそうに直を睨みつけている。
……この女も、グルだ。 直が賃を着していたことまでっていたかは別として、この建物をく、く、引に奪い取ろうとしている企みには、違いなくく関わっている。
「直さん。この建物の正当な所者は、私です」
私は直の目をまっすぐに見据え、文字文字を叩きつけるように告げた。
「あなたに建物を売却する権限はありません。佐野さんをち退かせる権利もありません。 そして——あなたが5にわたって着してきた賃料の全額返還と、私から騙し取った修繕費について、法な続きを取らせていただきます」
「ほ、法続きだと……!? てめえ、恩を仇で——!」
「こう、直さん」
叫びそうになる直の腕を、泉麻がい力で引っ張った。 女の顔は酷に引きつり、私を蛇のようなたい目で見据えていた。
「ここでは埒がかないわ。……きましょう」
「麻! だが、こいつがサインしないと、あの契約が——!」
「いいから乗って!」
泉麻に無理やり押し込まれるようにして、直はセダンの助席へと倒れ込んだ。 乱暴にドアが閉まり、急発したタイヤがアスファルトを激しく擦る音をてて、黒いセダンはの向こうへと逃げっていった。
静まり返った通りに、私の荒い呼吸の音だけが残された。
のひらに、じっとりとたい汗が滲んでいる。 臓が破裂しそうなほど激しく打っていた。
けれど、怖くはなかった。 25、あの男の嫌に怯え、義母の顔を伺ってきてきた私が、初めて自分ので面を踏み締めている覚があった。