みかん小説
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"赤字物件と笑う夫、毎月9万の裏口座" 第5話

シフトの穴埋めを詫びる文面を送り終えると、すぐに京浜線のホームへと急いだ。

勤ラッシュのたいが、コートの襟元を通り抜ける。 吊り革に掴まりながら、何度も画面をスクロールした。

昨夜、直から送られてきた最のメッセージ。

『の朝9に、川のので買いと待ちわせをしている。おが来ないなら、委任状のサインはおの跡を真似て俺がいておくからな』

あのは、本気配だ。 私が来なければ、勝に私の名をき、勝に実印を押して、に父の建物を引き渡す気でいる。

午815分。 川駅の改札をると、腔をくすぐるの匂いに、喉の奥がきゅっと締まった。

鋳物のの乾いた埃っぽさと、荒川から流れてくる湿った。 子どもの頃、父にを引かれて歩いた商は、すっかりチェーンのドラッグストアや層マンションに姿を変えていた。

けれど、通りから本入ったへを踏み入れた瞬、懐かしい昭の面が濃く残る角が現れる。

角を曲がる。 私のが、ピタリと止まった。

……嘘でしょう?

界にび込んできた景に、息を呑んだ。

直は言っていた。 「壁はヒビだらけで、青苔がえて廃墟同然だ」 「誰も寄り付かないガラクタだ」と。

だが、目のにある3階建てのビルは、古びてはいるものの、しっかりと入れされていた。

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コンクリートの割れ目は綺麗に補修され、共用階段の踊りには、枯れたゴミつ落ちていない。

そして何より——。

1階の、かつて父が文具をいていたはずの区画。 錆びついてかないはずのシャッターは、綺麗に巻きげられていた。

ガラス戸の奥に、柔らかな球のかりが灯っている。 入りの脇には、入れのき届いたオリーブの植鉢。 そして、製のさな板が掲げられていた。

『お直し・リメイク サノ』

臓が、肋骨の内側を激しく打ちつけた。

……お直し? が、営業している?

直の報告では、1階も2階も、全が「退済み・空」。 何万もの赤字を垂れ流しているはずの所だった。

その、カチャリと静かな音をてて、ガラス戸がいた。

エプロンをにつけた40代半ばほどの柄な女性が、さな箒を持って先にてきた。 慣れたつきでタイルを掃き、ふとち止まって、のにち尽くす私に線を向けた。

「……あの、おはようございます。は10からなんですけど、急ぎの裾げですか?」

穏やかな、けれど審者を警戒するような声だった。

私の喉が、カラカラに鳴った。 指先が震え、奥歯がさく噛みわない。

「……あ、あの」

声がかすれて、うまくない。 私はバッグの持ちをく握り締め、胸の奥底から言葉を絞りした。

「突然すみません。

私……この建物の所者の、浦恵理と申します」

女性のから、箒がカタンと音をてて落ちた。

「……え?」

女性の丸い目が、見かれる。 息を呑む音が、静かなに響いた。

「み、浦さん……? 所者って……え? だって、オーナーは浦直さんじゃ……」

「直は、私の夫です」

たいが、のを吹き抜けた。

女性は元に落ちた箒を拾いげることも忘れ、私の顔を凝した。 その瞳に、驚愕と、底れぬ混乱が広がっていく。

「奥さん……? え、でも……直さんは、奥様は病気で施設に入っていて、産の管理はすべて自分が任されているって……」

の芯が、カーッとくなった。

病気で施設? 誰が? 私が?

毎朝5に起きて族の朝を作り、義母の嫌に耐えながらパートにていた私が、夫のから「施設に入っている病」に仕てげられていた。

りで、界の端がく滅する。 けれど私は、必で呼吸をえた。 ここで取り乱しては、真実に辿り着けない。

「佐野さん、とおっしゃるんですね。板を拝見しました」

私は努めて静かに、くをげた。

「ち話も何ですから、しだけ……お話しさせていただけませんか。私、今まで夫から、このはずっと空だと聞かされていたんです」

佐野さんの顔から、すっと血の気が引いた。

「……へ、どうぞ」

震える声で案内された内には、ミシンの油とスチームアイロンの蒸気の匂いがち込めていた。

壁にはとりどりの糸が並び、作業台のには丁寧に仕て直されたスラックスやワンピースが積まれている。

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