"夫のスマホ「あの女は自分から出ていくよ」" 第16話
あの呪いのような言葉が、無識に脳裏をよぎり、私のから反射に言葉がこぼれそうになった。
「ごめんね、お母さん、またうっかりしちゃって……」
だが、私の言葉を遮るように、美咲がポンと私の肩を叩いた。
「何言ってるの。ほら、レンジの横にあるじゃん」
美咲が塩の瓶をひょいと持ちげ、いたずらっぽく笑った。
「お母さん、忘れ物くらい誰だってするよ。なんだからさ。忘れたら、探せばいいだけじゃん。したことじゃないよ」
……息が止まりそうになった。
忘れたら、探せばいい。 したことじゃない。
その当たりの、あまりにも温かい言が、乾ききっていた私のの奥くに、じんわりと染み渡っていく。
界が、急にぐにゃりと歪んだ。 胸の奥からいものが込みげ、の奥がツンと痛くなる。
「……あ、れ……」
ポロポロと、粒の涙が私の頬を伝い落ちた。 エプロンの袖で拭っても、拭っても、止まらなかった。
交番ので流した恐怖の涙でもない。 暗ので流した悔し涙でもない。
私は、もう怯えなくていいのだ。 何かを忘れたからといって、私の尊厳が奪われることはない。 私は、私のままで、ここにいていいのだ。
「ちょっとー、お母さん、なんで泣くのよー」 美咲が笑いながら、私の背を優しくさすってくれた。 そのの温もりが、力く私を支えていた。
「……ごめんね、嬉しくなっちゃって」
私は涙を拭い、い切り笑ってみせた。
お椀によそったいお噌汁から、い湯気が柔らかくちる。 テーブルを挟んで向かいい、「いただきます」とをわせた。
すすると、優しい汁のが体の隅々まで染み渡っていった。
以の私は、誰かに「おが違っている」と言われるたびに、まず自分を疑っていた。 今の私は、これからもきっと何かを忘れるし、失敗もするだろう。
けれど、もう度と、自分のをにけ渡したりはしない。
のが、さな卓を眩しいほどるく照らししていた。