みかん小説
本棚

"夫のスマホ「あの女は自分から出ていくよ」" 第9話

義母のが、突如として私のリュックの肩紐に伸びてきた。 骨ばった指先が、布を力任せに引き裂くような勢いで掴みかかる。

「棒! 棒猫が! 正の通帳を持っていこうとしてるんでしょう! しなさい! 全部ここに置いて、着の着のままていきなさいよ!」

揉みいになり、義母の爪が私の首を掠めた。 鋭い痛みがる。

以の私なら、恐怖でを放していた。 だが、今の私を支配していたのは、底れない徹さだった。

私は義母の首を、い切り払いのけた。

バチン、と乾いた音がリビングに響いた。

義母がよろめき、壁に背を打ちつける。 信じられないものを見る目で、目を見いて私を凝した。

「な……なによ、今の。嫁のくせに、姑にをげる気!?」

「触らないでください」

私は乱れた襟元をえ、ややかに言い放った。

「これ以乱暴なさるなら、今すぐ〇番します。器物破損と暴で、警察を呼びます」

「け、警察……!? 何をバカなことを!」

「ご所の方に、見られてもいいんですか?」

その言で、義母のきがピタリと止まった。

『世体』。 この老婆の唯の急所。 所の目を何よりも恐れ、「来た姑」を演じることに執着してきたが、もっとも恐れる言葉。

義母の線が、わずかにいた玄関ドアの――宅の静かな通りへと泳いだ。 顔が、屈辱とりで赤黒く染まっていく。

広告

「……正に、全部言ってやるからね。あなたが暴力を振るって、のを奪って逃げたって!」

「どうぞ、お好きに」

私は義母の脇をすり抜け、玄関のたたきにりた。 背からんでくる呪詛のような声を置きりにし、ドアを力く引いた。

カチャリ、と鍵が閉まる音。 たいが、汗ばんだ額を吹き抜けていく。

階段を駆けりながら、私は震える指先でスマホの録音を止した。 画面には、分秒の音声ファイルが確実に保されていた。

夕方、神田駅くの古いオフィスビル。 案内された法律事務所の応接には、壁面に分い判例集が並んでいた。

「――なるほど。典型なですね」

机を挟んで座る倉田弁護士は、老鏡の奥の鋭い目を細め、私が差しした証拠の数々をじっと見つめていた。

紹介してくれた由紀が、私の隣で配そうに膝を握りしめている。

テーブルのには、私が持ちしてきたものが並んでいた。 内科クリニックの受診控えと、医師の『認能に異常なし』のメモ。 夫のスマホ画面を撮した写真。 そして、あのジッパー袋に入れた義母の付箋。

倉田弁護士は、ピンセットで付箋の文字を確かめるように見つめ、く息を吐いた。

「この付箋は決定打ですよ、川さん。相側が図にあなたを理瑕疵――いわゆるガスライティングによって精神障害へ追い込もうとしていた、な物証です」

「ガスライティング……」

「ええ。配偶者を徐々に『自分がおかしいのではないか』とい込ませ、判断能力を奪い、利な条件で排除する悪質な精神虐待です。さらに、内科クリニックへの圧力。医師が毅然と拒絶していなければ、危うく虚偽の診断を盾にされるところでした」

臓が、ドクドクと音をてる。 専のから「虐待」と断言されたことで、胸の奥につかえていた黒い塊が、すっと溶けていくような覚があった。

私は狂っていなかった。 法に見ても、私はただの『被害者』だったのだ。

「先、夫が用したというこのアパートなんですが……」

私は昨夜、夫から送られてきたワンルームマンションの図面と所の画面を見せた。

倉田弁護士は元のタブレットで端末を操作し、産データベースを叩いた。 数分、弁護士の眉が険しく寄せられた。

「……あぶないところでしたね」

「え?」

「この物件、名義はご主ではありません。法契約でもない。……賃借の連帯保証、誰だかわかりますか?」

画面をこちらに向けられる。 そこにあった名義の親族欄の名に、私は息を呑んだ。

『宮原』。

夫の倫相――理の苗字だった。

「どういう……ことですか?」

「推測ですが、側の息のかかったルートで配された期賃貸です。もしあなたがここへ民票を移し、荷物を運び込んでしまえばどうなるか」

倉田弁護士は淡々と、しかし残酷な現実を解きかしていった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: