"夫のスマホ「あの女は自分から出ていくよ」" 第5話
由紀は事務所で総務や法務の類を扱ってきただけあって、物事の構造を徹に見抜いていた。
「あなたが自分から『私はおかしくなりました、迷惑をかけるからていきます』って言ってをて、婚届に判を押せば、あいつらは円も払わずに済む。それどころか、『病気の妻に逃げられたな夫と義母』として、周囲の同までに入るのよ」
臓の奥が、ギリギリと音をてて軋んだ。
。 歳で結婚して、娘を産み、義父を見送り、の悪くなった義母の世話を文句も言わずに引き受けてきた。 節約のために自分のは数に度しか買わず、パートにて計を支えてきた。
そのの結末が、これなのか。 用済みになったら、狂のレッテルを貼って、裏通りに捨てるように追いすのか。
「……許せない」
ぽつりと、私のから言葉が零れ落ちた。
「千鶴?」
「私、絶対に許さない。あいつらのい通りになんて、絶対にをていかない」
涙は、いつのにか止まっていた。 代わりに、胸の底から湧きがってきたのは、まれて初めてじる、真っ黒でたい、質なりだった。
「でも千鶴、どうするの? 今夜あそこに戻ったら、それこそ何をされるか……」
「戻らないわ。でも、逃げ隠れもしない」
私は帳をぎゅっと胸に抱きしめた。
その、帳の最のページに挟み込まれていた枚の片が、ハラリとテーブルのに落ちた。
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に受け取った、所のクリニックの領収証だった。
あまりの眠と痛に耐えかねて、でこっそり受診した内科の処方箋控え。 そこには、担当医がりきしたメモが残されていた。
『川様:いストレスによる自律神経の乱れ。認能検査(MMSE)は30点満点30点。記憶力に器質な異常は切認められません。ごください』
私はその片を、震える指先で拾いげた。
そうだ。 私は、狂ってなんかいない。 最初から、私のなど壊れていなかったのだ。
その、由紀のリビングの壁掛け計が、午を告げる静かな音をてた。 同に、私のスマホの画面が再び点灯した。
夫からのLINEだった。
メッセージをくと、そこには枚の写真が添付されていた。 見らぬワンルームマンションの見取り図と、内装の写真。
そして、そのに添えられた夫のメッセージ。
『おの荷物、母さんと緒にスーツケースつにまとめておいたから。、この部の鍵を渡す。しをやしてこい』
文字を追う私の界が、りで真っ赤に染まった。 荷物をまとめた? 私の承諾もなしに、私のを、私の私物を、あのが勝に触って箱に詰めたというのか。
私はスマホの画面を伏せることなく、え切った声で由紀に告げた。
「由紀。、弁護士を紹介して」
由紀の部のい遮カーテンの隙から、々とした朝のが差し込んでいた。
もできなかった。 敷いてもらった客用布団ので、井の目をじっと見つめているも、臓はずっとの奥で鐘を打っていた。
スマホの画面を見るのが怖い。 それでも、確認せずにはいられない。
ロックを解除した瞬、LINEの通欄が埋め尽くされていた。
夫からではない。 夫の従姉――普段は盆や正にしか連絡を寄こさない親戚からのメッセージだった。
『千鶴さん、丈夫? 正さんから聞いたよ。最、も体もかなり参っちゃってるんだってね。物忘れもひどいって……正さんも義母さんも本当に配してたよ。まずは無理しないで、静かなところでゆっくり療養した方がいいわ』
息が止まりそうになった。
喉の奥に、酸っぱい胃液がせりがってくる。 先が急速にたくなっていく。
まだ、逃げしても経っていない。 それなのに、夫はもう親戚に根回しを始めているのだ。
「千鶴さんは最、の病気だから」 「事もまともにできず、族に迷惑をかけている」
そうやって周囲の認識を塗り替え、私が何を叫んでも「病気の妻の妄言」として処理される檻を、晩で組みげている。
「……千鶴、起きてる?」
リビングから由紀が声をかけてきた。 トレイに乗せられたいコーヒーの苦いりが、張った神経を微かに緩める。
「由紀、見て。