"夫のスマホ「あの女は自分から出ていくよ」" 第1話
テーブルの端に置かれた夫のスマートフォンが、く震えてった。
画面に浮かびがったポップアップ通の文字に、私の目は吸い寄せられた。
『もうしで、あの女は自分からをていくよ』
……は?
文字のが、すぐにはに入ってこない。 あの女? 自分からていく? 誰のこと?
息が止まりそうになるもなく、て続けにもう通、同じ送信者からメッセージが画面を滑り込んできた。
『最は本も、自分がおかしいとい始めてるみたい』
臓が、ドクンと嫌なね方をした。
喉の奥が瞬でカラカラに乾き、指先からサーッと血の気が引いていく。 背筋を、氷がツーッと伝い落ちるような覚。
『来週にはあのワンルームの鍵、あいつに渡せる段取りついたから』
通目の通が追い打ちをかけるようにった。
ワンルームの鍵。 自分がおかしいとい始めている。 あの女。
ので、バラバラだったピースが恐ろしい音をてて噛みっていく。
(……私のことだ)
今、私たちは結婚周の記だった。 普段なら「なんての無駄」と切り捨てる夫が、珍しく「たまにはで美いものでもおう」と川駅くのし格式のいイタリアンを予約してきたのだ。
がけの義母の態度も、今えば異常だった。
普段、私が夕方にし買いしにるだけで「男の嫁が夕飯も作らずフラフラ歩くなんて」
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と嫌を連発する義母が、今夜に限っては満面の笑みで見送ってきた。
「千鶴さん、たまには夫婦入らずでゆっくりしておいで。のことなら何も配いらないからね」
あの気の悪いほどの笑み。 送りすの、品定めするようなたい目。
夫は「ちょっと洗いにってくる」と席をしたばかりだった。 普段は肌さず持ち歩くスマホを、無防備にテーブルのに裏返して。
私に対する警戒すら、そこにはなかった。 こんな従順で、最めっきり物忘れがくなったと怯えている抜けな妻が、自分のスマホを覗き見るはずがないとをくくっていたのだ。
元がガタガタと震える。
周囲に仕の姿がないことを確認し、私は自分のバッグから震えるでスマホを取りした。 指先がたく張り、ロック解除の数字を度も押し違える。
呼吸を殺し、無音カメラをちげた。 テーブルのの夫の画面にピントをわせる。
カシャ、という子音を消したまま、画面に並ぶメッセージを確実にレンズに収めた。 送信者の名は、画面の部にさく表示されていた。
『理』
夫の会社で営業事務をしている女性の名だった。 夫のワイシャツから、折ふわりとっていた甘い鹸のような匂いが、脳裏に々しく蘇る。
音がづいてくる気配がした。
私はスマホを自分の膝のに落とし、バッグの底へ滑り込ませた。 両を膝のでぎゅっと握りしめ、必に顔の筋肉をかして無表を作る。
「待たせたな。会社のやつから急ぎの連絡が入ってさ」
戻ってきた夫は何わぬ顔で席に着くと、テーブルのスマホを指先で引き寄せ、画面をちらりと確認した。 その瞬、夫の元がわずかに緩んだのを、私は見逃さなかった。
くいっている。 自分の描いた筋き通りにんでいる。 そう確信している男の、傲な笑みだった。
「肉、めないうちにえよ。結構いいコースなんだから」
夫がナイフとフォークをに取り、親しげな声で言った。 その顔が、連れ添ってきた夫ではなく、まったく見らぬ酷な獣のように見えた。
皿のの牛肉をに運ぶ。 が、まったくしない。 まるで濡れたを噛んでいるようだった。
「どうした? あんまり欲ないのか?」
「……ううん。美しいよ」
声が震えないよう、喉の奥を力任せに引き締めて答える。 今ここで騒いではいけない。 問い詰めて「何を見ているんだ」とスマホを奪われ、証拠を消されたら終わりだ。
「……ねえ、正さん」
「ん?」
「最の私、やっぱり変かな。自分でも、なんだかんなことを忘れっぽくなっている気がして」
探るように、恐る恐る言葉を投げかけてみた。 夫のが瞬止まり、それからいかにも妻を配する優しい夫の顔を作って、眉をげた。