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"「妻のヒモになれ」と笑われた夜、専務が頭を下げた" 第17話

「ただいま、浩さん……」

美穂の声は、疲労でかすれていた。 コートを脱ぎ、リビングのソファに倒れ込むようにして座る。 張り詰めていたビジネスパーソンの仮面が剥がれ落ち、の疲れ切った女性の顔に戻っていた。

「おかえり、美穂。お疲れ様」

私はキッチンから、湯気をてるお椀を運んだ。 根と豚肉をじっくり煮込んだ、温かい粕汁。 美穂が疲れたによくリクエストする、私の得料理だった。

「はい、まずこれんで。胃を温めて」

美穂はおずおずとお椀を受け取り、両で包み込んだ。 ちる湯気を吸い込み、ふうふうと息を吹きかけながら、すする。

「……ん。美しい」

喉を通っていく温もりに、美穂の張っていた肩が、すうっと落ちた。

「き返るわ……。今週はずっと数字の監査ばかりで、が破裂しそうだったの」

「変だったね。向こうの経営陣、納得してくれた?」

「ええ。厳しい再建案だったけれど、最は全員がしてくれたわ。……でも、本当に疲れた」

美穂はお椀を置き、私の顔を見げて、ふっと柔らかく笑った。

「今は、浩さんが私を養ってくれているわね」

その冗談に、私は声をして笑った。

「粕汁杯で養ってるなんて言ったら、瀬元部にまた鳴られちゃうよ」

「ふふ、そうね」

で顔を見わせ、さく笑いった。 かつて私の胸を抉ったあの言葉は、もう私たちのに何のも落とさなくなっていた。

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私は美穂の隣に腰掛け、温かいお茶を注いだ。

かつて私は、男なら妻より稼ぎ、肩きで勝っていなければではないとい込んでいた。 通信制学をて、叩きげで現にすがる自分と、華々しいキャリアを築く妻。 その差に引け目をじ、勝に劣等を抱き、職の理尽すらで抱え込んで、妻をざけようとしていた。

だが、あの嵐のような々を経て、ようやくわかったのだ。

妻が会の会で守ろうとしたのは、私の稼ぎでも、男としてのちっぽけなプライドでもなかった。 私が、誰よりも誠実に子どもたちと向きってきた、そのき方そのものだった。

そして今、疲れ果てて帰ってきた妻に温かい汁物を作り、その痛みを包み込むことができる私のもまた、妻にとってはかけがえのない支えなのだ。

夫婦とは、どちらがかを競いう関係ではない。 誰がどれだけ稼ぎ、どちらが偉いかなどという世の物差しは、玄関のドアをけた瞬に、靴と緒に脱ぎ捨ててしまえばいい。

「浩さん」

美穂が、お茶をすすりながら、穏やかな声で言った。

「若菜ちゃん、テスト良かったんですってね。藤田主任からメールをもらったわ」

「うん。85点だったよ。満点じゃなかったけど、あの子、本当にいい顔で笑ってた」

「そう。……良かったわね」

美穂は私のをそっと握った。 あの会の夜と同じ、温かい温もり。 だがもう、その指先は震えていなかった。

「も、授業?」

「ああ。はの最の追い込みだ。作りの予問題、全員分刷ってある」

「そう。……じゃあ、もいから、そろそろ寝ましょうか」

「うん。おやすみ、美穂」

「おやすみなさい、浩さん」

リビングのかりを消すと、柔らかなかりが、並んで置かれたつの湯呑みを照らしした。

本当の尊厳とは、誰がかかを競うことじゃない。 どれほど違う所にっていても、互いの仕事を、互いのき方を、決して見ろさないこと。

ただ、それだけなのだ。 私たちはこれからも、こうしてを携え、それぞれの現へと歩いていく。 たいの吹くの夜の底で、私の胸には、消えることのない静かなが灯っていた。

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