"赤ペンの死線と消えた五年間" 第3話
「どういうことですか、先輩?」 向井が目を瞬かせる。
「伊達先輩のメモをもう度よく読んでみて。『本、貴シリーズ全巻を閲覧。午の点で残りは巻』。この『残り』という言葉は何を指しているとう?」
レンが首を傾げた。 「元に残っていた本、だろ?」
「いいえ。彼は『閲覧』という為をしていたのよ。つまり、これは『まだ読んでいない残りの巻数』というにも取れるわ」
ハルカの言葉に、レンと向井は同に息を呑んだ。
「全巻のうち、までに巻を読み終えて、すでに館内の正規の返却カートに戻していたとしたら? その点で『未読の残り』は巻。そして半までにその巻も読み終えて戻した。だから『すべての本を返却棚に戻した』という記述に、切の矛盾はないわ」
「で、でも!」向井が慌てて声をげる。「それなら、なぜ今その冊がどこにもないんですか? 伊達先輩が盗んでいないとしたら、本はどこへ消えたんですか?」
「それも、集の提条件を見落としているからよ」 ハルカは静かに線を巡らせ、カウンターの脇にある「着図受領ボックス」を指差した。
「向井くん。今朝、図委員会で何か別の作業をしなかった?」
「え? あ……今朝は、朝読用の寄贈本をダンボールに詰めて、隣の分館へ送る配を……」
「そのダンボール、どこに置いた?」
「集荷用のロッカーですけど……まさか」
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は急いで廊の集荷ロッカーへと向かった。まだ業者に引き渡されるの、封をされたばかりのダンボールが箱置かれている。向井が震えるでテープを剥がし、を確認した。
ぎっしりと詰められた文庫本の番底から、な装丁の『貴復刻シリーズ』全巻が、無傷のまま姿を現した。
「あった……! でも、なんでここに……」
「昨の閉館直、清掃担当の委員が返却カートの本を理するとき、着本と混ざっていたこの冊を『分館送りのリスト本』と誤認して、そのまま箱に詰めてしまったのね。伊達先輩は正しく返却棚に戻していた。ただ、返却棚という集から、別の集へと勝に移管されていただけよ」
向井はそのに座り込み、くをげた。 「僕の確認でした……。伊達先輩を疑うようなことをして、本当に申し訳ない……」
「言葉の義性と、隠れた提。数字だけを追っていると、現実の定義域を見誤るのよ」 ハルカはそう言って、隣でぽかんとしているレンの脇腹を突いた。 「ほら、レン。これで分かったでしょう? 『5−2=3』という計算自体は正しくても、その『2』や『3』が何を指しているのかを厳密に定義しなければ、全くの無実のを犯に仕てげることだってあるのよ」
レンは部を掻きながら、さく唸った。 「……参ったな。テストの秀吉も、きてる数じゃなくて『んでからの経過数』だったってことか。
言葉の器との数字がズレてたんだな」
「そういうこと。やっとしは論理に考えられるようになったじゃない」
夕が完全に沈み、図の窓のには群青の夜空が広がっていた。灯がつ、またつと灯り始める。
「さて、謎も解けたことだし、本来の目に戻りましょうか」 ハルカが鞄を持ち直し、悪戯っぽく笑った。
「本来の目って……」 「本史の追試対策よ。駅のファミレスで、今度こそ論理な読解力を叩き込んであげるわ」
「う……勘弁してくれ……」 「ダメよ。秀吉のの供養だとって、付きいなさい」
の音と軽が、夜の静かな舎に響き渡り、やがてたい夜のへと消えていった。
ファミレスの自ドアをくぐると、チープな子音と揚げ物のばしい匂いがを迎えた。平の夕暮れということもあり、内は部活帰りのや買い物帰りの主婦たちで半分ほど埋まっている。
案内された窓際のボックス席に腰をろすと、レンは々とため息をつきながら、無料のドリンクバーへ向かった。戻ってきた彼のには、メロンソーダとカルピスを適当に混ぜわせた気なのグラスが握られていた。方のハルカは、湯気をてるホットの茶を静かにソーサーへと置く。
「……なぁ、ハルカ。さっきの図の件は認めるよ。
俺が悪かった。言葉の定義を甘く見てた」