"毎週木曜日、君が来る" 第7話
ただいまの向こう側
緒に暮らす話は、1度では終わらなかった。
は仕事を続けたかったし、僕には仕事部が必だった。母親のに通いやすい所も、2で探した。休みのに産を回り、帰りに定で取り図を広げる。
「ここ、台所が広いね」
「2でも、蔵庫がく」
が噌汁を吹きそうになったので、僕は慌てて取り図をよけた。
、彼女はそのを丁寧にたたみ直した。角をそろえる指を見ていると、そこにかれた角い部が、本当に僕たちの暮らす所になるのだと、遅れて実が湧いた。
の初め、その部の窓際で、僕は結婚を申し込んだ。
引っ越しのを決め、両方の親にも挨拶を済ませていた。それなのに、その言葉だけはまだ言えていなかった。
段ボールをけていたに声をかけると、彼女はを止めた。
「どうしたの?」
僕はポケットのでさな箱の角を確かめた。昨夜は何度も言い方を考えたのに、彼女の顔を見たら、全部どこかへってしまった。
「順番、遅くなったけど」
そこで声がかすれた。が静かに待ってくれる。その目を見て、僕も逃げずに顔をげた。
「僕と、結婚してください」
彼女はし唇をき、何も言わずに閉じた。まつげが何度か揺れたあと、ゆっくりうなずいた。
「はい」
差しされたは、っていたよりたかった。
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指輪を持つ僕の指も震えていて、うまく通せない。
「丈夫。ゆっくりで」
がさく笑った。その声で、ようやく僕も息をした。
指輪が収まると、彼女はをしして眺めた。それから、誰かに見られるわけでもないのに顔を伏せ、僕の肩に額をつけた。
抱き寄せようとして、どこにを置けばいいのか迷った。背にそっと触れると、彼女の指がシャツの裾をつかんだ。
もうしく抱きしめていいのだと分かった。
けかけの段ボールが、元でさく鳴った。
類をしまう、僕は自分のを端へ寄せ、収納の半分を空けた。の箱を見てから、もう2着、畳んで引きしへ移した。
「そんなに、よけなくても」
「の分もあるでしょう」
彼女は空いた所にを伸ばし、ハンガーを1本かした。僕のシャツの襟が折れているのを直し、その隣に自分のブラウスを掛ける。
2でしれて眺めた。
の指が、僕のの甲をそっとなぞった。
初めて喫茶で会ってから、ちょうど1ほどたった、族だけでさな式を挙げた。
事の席で、母が「子どもの頃の写真を探したの」と封筒をした。からてきたのは、卒業式のにので撮った1枚だった。
写真の央で、僕は友達と肩を組んでいた。しれた端のほうに、が写っている。を胸につけ、卒業証の筒を両で持っていた。
「同じ写真にいたんだ」
僕が言うと、が隣から顔を寄せた。
「ほんとだ」
2で写真を持つ。端をつまむ指が触れて、がこちらを見た。
あの頃の僕に教えたら、どんな顔をするだろう。端に写る女の子が、いつか毎週会いたくなるになる。そのと今、同じ写真をのぞき込んでいる。
何か言おうとしたけれど、喉のあたりがつかえて、うまく声がなかった。
は何も聞かず、テーブルので僕のを握った。僕も握り返し、しばらく写真を見ていた。
結婚しても、の仕事の朝はかった。
僕が先に起きたは湯を沸かし、彼女が先に起きたは、机のに僕のマグカップがていた。忙しい朝には話せないこともある。それでも、玄関で靴をはく音がすると、僕はできるだけ顔をした。
「ってらっしゃい」
「ってきます」
はドアをけるに、1度振り返るようになった。
の曜、夕方の買い物から帰ると、彼女はもうにいた。
傘は持っていたのに、で肩が濡れてしまった。玄関で着を脱いでいると、がタオルを持ってきた。
「だから、きい傘にすればって言ったのに」
「をたは、そんなにってなかったんだよ」
「こっちも濡れてる」
彼女は僕の襟元にタオルを当てた。僕はしかがんだ。首のろを拭くつきがやさしくて、そのままかずにいた。
「何、笑ってるの?」
言われて初めて、自分が笑っていると気づいた。
「あのと、逆だなとって」
のが止まった。
「ああ。あののタオル、柔剤のにおい、すごく覚えてる」
「そうなの?」
「うん。返しにく、違うにおいになっちゃったって、し気にした」
僕はそんなこと、考えもしなかった。喫茶で受け取った袋をいす。きれいにたたまれたタオルと、さな焼き菓子が入っていた。
彼女もあの約束のに、タオルを洗い、乾いたか確かめ、たたんでいたのだ。僕がシャツの裾を気にしていた、あのに。
「何でも、もうしく聞けばよかったな」
「これから聞けばいいよ」
はそう言って、タオルを僕のに渡した。
台所から、だしのにおいがした。窓のではがり続いている。
僕は買い物袋から、彼女の好きな豆福をした。
「あ、覚えててくれたの」
は袋のをのぞき、元をほころばせた。お茶をいれようと台所へ向かいかけてから、戻ってくる。
「そういえば、まだだった」
何が、と聞くに、彼女が僕を見げた。
僕は濡れた傘をてかけ、靴をそろえた。
「ただいま」
「おかえり」
は僕のから買い物袋を受け取ると、濡れていないほうのをつないだ。
(完)