"毎週木曜日、君が来る" 第3話
君だけが覚えていたこと
曜、約束の喫茶に15分く着いた。
窓に映る自分のシャツの裾を直し、をのぞこうとして、やめた。く来すぎたとわれるのが、なぜか恥ずかしかった。
「直君」
ろから呼ばれ、振り返った。
はいブラウスに、紺のスカートをはいていた。制姿しからなかったので、瞬、らないに名を呼ばれたような気がした。
「いね」
「ちゃんも」
「うん。にいても計ばっかり見るから、てきちゃった」
僕は用していた「今、着いたところ」をみ込んだ。
「僕も、同じ」
彼女が笑ったので、僕もやっと笑えた。
向かいって座ると、玄関では気にならなかった沈黙があった。メニューをき、もう決めているコーヒーのページを眺める。
「あのね」
「そういえば」
声がなり、2とも黙った。それから譲りって、また声がなった。
がメニューで元を隠した。
「学でも、こんなことあったね」
「あったかな」
「直の。どっちが先に号令をかけるか決めてなくて」
いした。2で同に「起」と言い、先に「息ぴったりだね」と笑われた。あのも彼女は、今と同じように顔を伏せていた。
それを境に、教のことがしずつからてきた。
の揚げパン。になると音のなくなるオルガン。卒業式の練習で、毎回泣いてしまう担任。
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僕が覚えていないことをが覚えていて、が忘れていたことを僕が話した。れていたの両端を、慎につないでいくようだった。
何かの同級の話になり、僕がっている1は、もう子どもが学だと話した。
「直君は、結婚してないんだよね?」
が聞いた。僕は顔をげた。
「うん。ちゃんは?」
「私も。今は、母と2で暮らしてる」
相づちを打とうとして、声がし裏返った。メニューの端をつまんでいた指をす。自分でも気づかないうちに、力が入っていたらしい。
「よかった」
からてしまい、慌ててコーヒーをんだ。もうぬるかった。
はカップを持ちげかけたまま、僕を見ていた。やがてを向き、さな声で「うん」と言った。
「のに、ハンカチを借りたよね」
言うと、はカップを置いた。
「のところで転んだ?」
「膝、すごくすりむいて。痛くて泣いたんだけど、誰かに見られるのが嫌で、を向いてた」
「うん」
「あの、みんなに言わないでいてくれて、ありがとう」
は驚いたように僕を見た。やがて指先でカップの取っをつかみ、照れたように首を振った。
「そんなの、言わないよ」
湯気の向こうで、その声だけが昔に戻った。
「でも、傘は返せてよかった」
「傘?」
「直君が貸してくれたでしょう。そのあと、別のに」
覚えていなかった。
は窓のへ目を向けた。
何かを探すようにし考えてから、話し始めた。
「私の傘、骨が曲がって閉じなくなって。昇で困ってたら、これ使えばって」
「僕、どうやって帰ったの」
「を歩いてた健太君を呼んで、って入れてもらってた」
その景なら、ぼんやり浮かんだ。肩をぶつけながら1本の傘に入り、たまりをよけたこと。
「たぶん、ちょうど帰るところだったんだな」
「うん。でも、助かった。あの、持って帰る絵があったから」
「絵?」
「図の。描くの遅くて、やっとできたやつ。濡らしたくなかったの」
僕にとっては、すっかり忘れていた放課だった。彼女にとっては、事な絵を濡らさずに帰れただった。
コーヒーをもうとして、を止めた。
「よかった。濡れなくて」
「うん」
は、今度はまっすぐ僕を見て笑った。
をる頃には、窓辺のが斜めになっていた。
「こんな」
が計を見て、名残惜しそうにバッグを持ち直した。その表を見たら、もうし緒にいたいと言えそうな気がした。それでも、引き止めるのはやめた。初めての約束を、楽しかったまま終わらせたかった。
「また、話せる?」
「曜、会うよ」
「仕事じゃないに」
言ってから、頬がくなった。
は歩幅を緩め、僕の隣に並んだ。
「それなら、今度はごはんにしよう。あの駅のお、まだあるかな」
帰り、信号が変わっても、僕たちは急がなかった。
次の青を待つ、が昔好きだったの名を、2でいそうとしていた。