"毎週木曜日、君が来る" 第2話
のにおいと、君の名
9のある曜、朝から空が暗かった。
台は夜にづく予報で、昼からが窓をたたき始めた。今は来ないかもしれない。そうっていたのに、チャイムが鳴ると、子の脚をに引っかけるほど慌ててった。
ドアの向こうで、彼女が具のフードをした。
「こんにちは。遅くなってすみません」
額に張りついた髪を指でよける。その指先も、制の肩も濡れていた。
「謝らなくていいです。ちょっと待っててください」
洗面所へ戻り、乾いたタオルを取った。洗ったばかりのものを選び直して玄関へくと、彼女はたたきに滴を落とさないよう、側にっていた。
「そこ、濡れますから。もうしこっちへ」
「でも、が」
「拭けばいいので」
タオルを渡すと、彼女は両で受け取った。さく息をつき、頬に当てる。僕は濡れた袋を見て、引きしから空の袋もした。
「これも、よかったら」
彼女は袋と僕の顔を交互に見たあと、ふっと笑った。
「そういうところ、昔から変わらないね」
声の響きが、それまでと違った。
「昔?」
彼女のが止まった。
「あ、ごめんなさい。今のは……」
取り繕おうとする顔を見て、い記憶のの誰かが同じ顔をした気がした。先に名を呼ばれ、返事をするに唇を結んでいた女の子。教の窓側で、本を読んでいた女の子。
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初めて来たにもじた、あの懐かしさ。僕は顔を見直した。記憶ののい髪を、今の肩まである髪にねてみる。
僕は制の名札へ目を落とした。
野田。
何度も見ていたはずの2文字が、別の所に結びついた。
「野田さんって、もしかして、学の……」
彼女の目がゆっくりきくなった。
「ちゃん?」
呼んだ瞬、顔がなった。あの頃はかった髪。しがる目尻。笑う、元にを添える癖。
彼女はタオルを胸ので握り、しばらく僕を見ていた。
「……うん」
返事のあと、肩の力がふっと抜けた。
「やっと気づいた」
学5と6の2、同じ教にいた。卒業して別の学へみ、それきり会わなくなった。22もたっていた。
「全然、分からなかった。ごめん」
「謝らないで。私も、名札がなかったら仕事のの顔って、ちゃんと見ないかもしれない」
「ちゃんは、いつ分かったの」
「初めて来た。表札を見て、そうかなって。声を聞いたら、やっぱりそうだった」
「そうだったんだ」
「最初に言いそびれたら、次も言いにくくなっちゃって。覚えてるって聞いて、困った顔されたら嫌だな、とか」
僕は玄関脇の表札を振り返った。彼女は初めから、僕の名をっていたのだ。
「言ってくれればよかったのに」
そう言いかけて、を閉じた。自分だけが覚えていて、相がしも気づかない。名乗ってもいしてもらえなかったら。
その細さを、ようやく像した。
「……気づくの、遅くなったね」
はタオルの端を指でなぞった。
「うん。ちょっとだけ、待った」
責めるような言い方ではなかった。そのせいで、胸の奥が余計にきゅっとした。
聞きたいことが次々に浮かんだ。今はどこにんでいるのか。あの頃仲のよかった子とは会っているのか。
けれど、彼女がさりげなく腕計を見たので、僕は体を引いた。
「ごめん。仕事なのに」
「私こそ、くなっちゃった」
がしまっていた。彼女が保バッグを持ち直す。
「あの、休みのに、お茶でもどうかな」
の線が戻った。僕はドアノブを握り直した。
「昔の話、もうし聞きたい」
「……私も」
彼女はそう言ってから、具のポケットを探った。
連絡先を交換する、僕たちは何度も画面を見せった。仕事の話なら迷わず打てる名を、僕は1文字ずつ確かめて入力した。