"「ここは新妻の家」と笑う義母へ突きつけた、青い契約書" 第14話
義母の唇が、わなわなと震えた。 「そ、それは……浩司が事な期だったから……」
「事な期?」 私は歩、義母へと踏み込んだ。
「あなたが事にしていたのは、息子の虚栄と、私の名義で支払われていた賃と、私の料から落ちていた活費だけでしょう。 『子供も産めない欠陥品』と私を罵りながら、その欠陥品が稼いだでハワイへき、ブランド品を買い、孫の誕を祝っていた。 ……恥ずかしくないのですか?」
周囲の空気が、完全に変わった。 を止めていた同僚たちが、事を察して義母へ侮蔑の線を向けている。 通りすがりの々のひそひそ話が、さざ波のように広がっていく。
「なにあの……」 「お嫁さんが術してるにハワイで浮気旅?」 「最じゃない……」
義母の顔から、気に血の気が引いていった。 何よりも恐れていた「の軽蔑の目」が、無数の針となって自分自に突き刺さっていることに、ようやく気づいたのだ。
「あ……う……」 喉からのない音が漏れる。
「もう度と、私のに現れないでください」 私は警備員に向かって軽く会釈をした。 「審者です。敷へ退させてください」
「おい、あんた! 困りますよ、ここは病院の敷内だ!」 体格のいい警備員が義母の両脇を固め、容赦なく歩へと押ししていく。
「ゆ、由美さん! 待ちなさいよ! 浩司はどうなるのよ! あの古いで、でどうやって暮らせばいいのよ――!」
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みっともなく喚き散らす声が、ざかっていく。 私は度も振り返ることなく、病院のエントランスへと戻った。 胸の奥を吹き抜けていったのは、りでもしみでもない。 ただ、たい鎖が音をててれたような、圧倒な軽やかさだった。
数ヶ。
季節はへと移り変わり、のが鮮やかな黄に染まり始めていた。 私の卵巣の組織検査結果は完全な良性であり、術の回復も極めて順調だった。
姉の事務所を通じて届いた報告によると、元夫と義母は今、築の湿っぽい実の平で、を寄せって暮らしているという。 元夫の激減した料からは、毎容赦なく美穂への養育費が引き落とされ、元には々の費すら満に残らない。 美穂は実へ引きこもったまま、弁護士を通じて械にだけを毟り取っているらしい。
狭い平ので、かつて私を虐げていた母と息子は、今や「おのせいでこうなった」「あんたが甘やかしたからだ」と、互いを呪いいながらのような毎を過ごしている。 私という防波堤を失った彼らのは、自分たちの浅ましさによって、底のない沼へと沈んでいったのだ。
夕暮れ。 私は仕事帰りにち寄ったで、季節のリンドウとい仙の枝を包んでもらった。
歩いて分ほどの、静かな宅。
しく借りた、当たりのいいさなマンション。 オートロックを抜け、真しい鍵をドアノブに差し込む。
カチリ、と軽やかな音がして、ドアがいた。
玄関には、私の靴だけがきちんと揃えられている。 の音もしない。 理尽な鳴り声も、嘲笑も、誰かの嫌を伺うたい緊張も、ここには何つしない。
リビングに入り、買ってきたを輪挿しにけた。 き母の形見だった、漆の箱の隣。 綺麗に磨き直した母の写真ので、母は変わらない優しい笑顔を浮かべている。
部のスイッチを点けると、柔らかなオレンジのが、私の選んだカーテンとさな製のテーブルをかく照らしした。
15。 私はずっと、耐えて尽くしさえすれば、いつか本当の族になれると信じ込んでいた。 けれど、違った。 自分の尊厳を削り取ってまでに入れる「族」など、どこにもありはしないのだ。
私は、誰の嫌を取る必もない。 誰かの許を得なくても、自分ので、自分のを美しくきていける。
窓のでは、京の夜が静かに始まろうとしていた。
コートを脱ぎ、ゆっくりとく息を吸い込む。 胸の奥まで満ちていく、たく澄んだ空気。
今夜、私はようやく、自分のに帰ってきた。