"意識のない母の家を売る夫、その時病室のベルが鳴った" 第9話
何があっても、あのたちのい通りにはさせない」
娘を階の私の昔の部に寝かせたあと、私はでリビングに戻った。 計の針は午を指していた。 眠気など微もなかった。
私は台所の流しでたいを杯み、ダイニングテーブルにノートパソコンをいた。
泣いている暇はない。 相は、追い詰められた獣だ。何をしでかすか分からない。 傷に浸るのは、全てを法に終わらせてからだ。
方スーパーの経理として、私は毎のように税理士や弁護士と類をやり取りしてきた。 契約とは何か。 産の権利とは何か。 論ではなく、制度の鉄板で相を叩き潰すための順を、私はので静に組みてていた。
午分。 役所がくと同に、私はきした。
まず向かったのは、法務局の張所だった。 窓で申請を提し、母のと建物の『登記事項証』を取得する。
数百円の数料を払い、発されたばかりの類に目を落とす。
【権利部(甲区)(所者に関する事項)】 【所者:子】
段には、余計な抵当権も、所権移転の仮登記も切記載されていなかった。 母の単独名義。完全に綺麗な状態。
胸の奥で、さく息を吐きした。
夫はまだ、登記の移転続きにはを着けていない。 いや、着けられるはずがなかったのだ。
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いくら宅業界にいて識があろうと、所者本の実印と、発ヶ以内の印鑑登録証がなければ、司法士を通した本登記など絶対に通りはしない。
夫がやったのは、ただ「委任状はから持参する」と丁で買主を信用させ、私用の座に付を振り込ませただけ。
法に見れば、母のは何ひとつ傷ついていない。 窮にたされているのは、母でも私でもない。 の権利を騙ってを騙し取った、あの男なのだ。
法務局をたそので、私は母が入院する民病院へとをらせた。 病の母の顔を見にくため、そして、もうひとつ―― ナースステーションに、あるな類を提するためだった。
だが、エレベーターをりて階の病棟フロアにを踏み入れた瞬、 私はを疑うような号をにすることになった。
「ちょっと! なんで族が面会できないのよ! 納得いくように説しなさいよ!」
病棟のデイルーム――入院患者や見い客が集まる談話ので、甲い叫び声が響き渡っていた。
義母の千鹤だった。
それだけではない。 義母の背には、夫の叔母にあたる親戚の女が、腕を組んで仁王ちしていた。 子でき交う齢の患者たちが、怯えたように巻きに眺めている。
護師が困惑した表でちはだかり、必に声を落とすよう求めていた。
「本様、の方のご迷惑になりますので、お静かに願います。様の面会制限は、キーパーソンである実のお嬢様からの正式な請によるものですので……」
「実の娘だからって何よ! うちの浩司は男の夫なのよ! 向こうの親の面倒を見るために、わざわざ親戚同で話しいに来てあげたんじゃない!」
義母は唾をばしながら喚きてた。
「嫁の真紀がね、夫を差し置いて親の財産を独り占めしようとしてるのよ! 識が朦朧としてる寄りを囲い込んで、実を乗っ取る気なの! そんな悪魔みたいな嫁の言うことを真に受けて、病院が加担する気!?」
悪魔みたいな嫁。 財産の独り占め。
世体を何よりもんじるはずの義母が、なりふり構わず衆の面で嘘をまき散らしている。 そこまでして、母に接触し、委任状に指印を押させようというのか。
私の元で、スリッパがキュッと擦れる音がした。 全の血が、瞬で沸点に達するのをじた。 だが、りに任せて鳴り散らしたりはしない。 そんなことをすれば、義母の俵に乗るだけだ。
私は呼吸をひとつし、凛と背筋を伸ばして、だかりの央へと歩みた。
「お義母さん」
静かな、けれどよく通る私の声に、義母がピクッと肩を揺らして振り返った。
「……ま、真紀さん!」
義母は瞬だけたじろいだが、すぐにろの親戚たちに目配せをし、鬼の首を取ったように声を張りげた。