"義母の葬儀で消えた妻と百八十万" 第11話
それにさ、番事なのは遺産分割協議だろうが。相続税の申告だって期限があるんだから、めに現を確定させて、男である俺が取りまとめなきゃならん」 ついに、隠すことのない本音がその汚らわしいからびした。 母親への追悼のなど欠片もなく、彼らのを占めていたのは、ただただ義母が遺した銭の奪取だけだったのだ。 「お母様の預通帳や、命保険の証、権利関係の類……そういう貴品は、体どこに保管してあるのかしら? まさか、あなたたちが勝に隠し持っているわけじゃありませんわよね?」 直子の邪悪な問いかけに対し、それまで押し黙っていた由が、ゆっくりと顔をげた。 「……お母さんの切なものはすべて、実の仏壇のの引きしにしまってあります」 「そうか! 仏壇のだな!」 正の目が、獲物を見つけた猛獣のようにギラリとった。 「よし、じゃあ善は急げだ。の朝番で、みんなで実に集まって確認しようじゃないか」 「は無理です」 俺は即座に首を横に振った。 「は曜です。私も会社がありますし、末の決算期で休むわけにはいきません。それに、由もこの数の労で限界です」 「あらあ、会社にくらいをもらえば済む話じゃありませんの。内の相続という事な用事があるんですから」
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直子がさも簡単そうに言い放つ。 「じゃあさ、健太郎君たちが無理なら、俺たち夫婦だけで先に実へって見ておこうか? どうせを確認するだけなんだから、い方が助かるだろ?」 正のその提案を聞いた瞬、俺の全の細胞が危険信号を発した。 なぜ、そこまで焦るのか。なぜ、俺たちを排除して自分たちだけで仏壇の引きしをけようとするのか。 「いいえ、それは困ります。義母の遺品は、相続全員のち会いのもとで、公正に確認すべきです」 「おいおい、何を疑ってるんだよ!」 正がカッと目を見き、声を荒らげた。 「俺は母さんの男だぞ! の跡取りとして、責任を持って遺産を管理しようとしてるだけだろうが!」
そのだった。 俺と正の激しい押し問答を断ち切るように、隣に座っていた由がガタリと子を引いてちがったのだ。 その表は、先ほどまでの々しい姿とは打って変わり、徹なまでの決に満ち満ちていた。 「忘れ物したから、に帰りましょう」
冒のあの瞬へと、が巻き戻る。 精落としの片付けも終わり、斎をようというこの壇で、何を忘れたというのか。俺が困惑して聞き返すと、由は俺の目をまっすぐに見据えて言い放った。 「気づかなかったの?」 その瞳の奥にある尋常ならざる気迫に圧倒され、俺は何も言えなくなった。
正が慌てて引き留めようとにる。 「おい由、何を急に言いすんだ! まだ遺産の話の途だろうが!」 「お兄ちゃん、お疲れ様でした。この続きは、またにしましょう」 由は正の制止を完全に無し、俺のを引に引いてで歩きした。 「ちょっと待てよ! そんなに急ぐ必がどこにあるんだ!」 駐へ向かうアスファルトのを、正が血相を変えて追いかけてくる。 「由! おい、体どうしたんだよ! 体調でも悪いのか!?」 のドアノブにをかけた由は、を止め、ゆっくりと兄の顔を振り返った。その瞳には、これまでので度も見せたことのないような、ややかな、そして憐れむようなが宿っていた。 「……お母さんが、待っているんです」 「な……!?」 正のがピタリと止まり、その表にらかな揺と、得体のれない恐怖がった。 「へ、変なこと言うなよ! 母さんはもうんだんだぞ……!」 「私には分かるんです。お母さんが、今、私に番切なことを教えてくれようとしているのが」 由はそれ以言も発することなく、運転席へと乗り込み、ドアを閉めた。 正は窓のでち尽くし、幽霊でも見たかのように青ざめた顔で俺たちを見送るしかなかった。
が夜の通りへと滑りしても、内には苦しい沈黙が支配していた。 普段なら俺がハンドルを握るはずだったが、今夜は由が自ら運転席に座り、方を鋭く睨みつけながらをらせていた。