"義母の葬儀で消えた妻と百八十万" 第2話
そんな波のたない平穏な々を積みねていた。
だが、今というは違った。今は、俺にとって掛け替えのないだった義母の通夜のだったのだ。 義母の佐藤美代子さんは、俺にとって単なる妻の母親という枠を遥かに超えて、実の親以の温もりを与えてくれた恩だった。実母をくにくしていた俺にとって、に由と結婚したそのから、美代子さんは本当の息子のように分け隔てなく接し、惜しみないを注いでくれた。 しかし、そんな美代子さんも寄る波には勝てず、に脳梗塞で倒れてからは、活のあらゆる面で介護が必な体となってしまった。それからの、俺と由は互いにを取りい、交代しながら献に介護を続けてきた。特に最の主だったは、軽い認症の症状も見え隠れするようになり、夜に徘徊しかけたり、同じことを何度も尋ねられたりと、ともに決して楽な介護ではなかった。それでも、ふとした瞬に美代子さんが見せてくれる屈託のない笑顔や、「健太郎君、いつもありがとうね」という掠れた優しい声を聞くたびに、疲れなど吹きび、でもくきてほしいとから願っていたのだ。
美代子さんが息を引き取ったのは、の夜のことだった。
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容態が急変したという病院からの緊急連絡を受け、夜の静まり返った病へ駆けつけた、モニターに映る図の波形はすでに平坦になりかけていた。主治医から臨終を告げられた瞬、由はそのに崩れ落ち、声をげて泣きじゃくった。普段はで涙を見せないように努めている俺も、たくなっていく義母の痩せたを握りしめながら、止めどなく溢れる涙を拭うことができなかった。このという歳ので、義母がどれほど俺の孤独なに温かいを灯し続けてくれていたのかを、失って初めて骨の髄までいらされていた。
実は、俺には誰にもかしていない過の秘密があった。 今でこそさな企業の経理部で、な帳簿付けを黙々とこなす介の係に甘んじているが、までの俺は、国資格のつである公認会計士として、監査法の第線でバリバリと働いていたのだ。 当の収は同代の倍以あり、仕事への誇りと野に満ち溢れ、いずれは自分の名を冠した会計士事務所をちげて独することさえ本気で目指していた。だが、の絶頂にあった俺の元は、あるつの忌まわしい事件によって音をてて崩れった。 俺が主査として監査を担当していたある堅製造企業で、巧妙に隠蔽されていた巨額の正経理と飾決算を見抜くことができず、結果として会社が突然の倒産に追い込まれる事態を招いてしまったのだ。
法な刑事責任こそ問われなかったものの、数字の専として、プロフェッショナルとしての誇りは完全に々に打ち砕かれた。経営陣の巧妙な虚偽説にまんまと騙され、サインをしてしまった自らの甘さと無能さに絶望し、俺は自責のから逃げるようにして会計事務所を退職した。
それ以来、俺は公認会計士の資格を自ら封印した。登録を抹消こそしなかったものの、履歴からもその華々しい経歴を削り、妻の由にさえ、詳しい挫折の真相を語ることはなかった。誇りを失った俺は、ただのの経理マンとして、の丈にったさな料でコツコツと計を支えることだけで精杯だったのだ。 だが、くなった義母だけは、なぜか俺のそんな打ちひしがれた過のすべてをっていた。 数のある穏やかなの午、縁側でお茶をんでいた、俺はたまらなくなって胸の内を吐したことがあった。 「お母さん、俺……もう度と、会計士の世界に戻るつもりはないんです。数字を見るのが、怖くなってしまったんです」 伏し目がちにそう打ちけた俺に対し、義母はいつもの柔らかな笑みを浮かべ、皺の刻まれた温かいで俺の背をそっと撫でてくれたのだ。