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"義母の葬儀で消えた妻と百八十万" 第1話

「忘れ物したから、に帰りましょう」

義母の葬儀が滞りなくみ、親族同が席に着いていた精落としのさなか、隣に座っていた妻の由が、唐突に俺の腕をそっと引いてそう囁いた。 読経の余韻がまだ微かにの奥に残る、静まり返った厳粛な斎のである。親族や参列者たちが膳を囲み、故のいを静かに語りっているこの所で、なぜそんな突拍子もないことを言いすのか。俺は困惑のあまり、箸を握ったまま目を丸くして妻の顔を見つめ返した。

「……葬儀の最に、何を言っているんだ? 由、まだ皆さんもいらっしゃるんだぞ。体どうしたっていうんだ」 「気づかなかったの?」

く、だが切迫した声だった。由は俺の狼狽などに介さない様子で、俺の首を細い指先でく握りしめると、ためらうことなくそのからちがらせた。 擦れる喪の擦れの音が、静かな広に異様にきく響き渡る。 周囲の親戚たち、そして巻きに酒を酌み交わしていた参列者たちの怪訝そうな線が斉にこちらへと突き刺さるのを肌でじ、背が粟つような痛みを覚えた。義母への最のお別れを捧げる神聖な席で、なぜこのような無礼な真似をしなければならないのか。俺には何つ理解できず、をもつれさせながら妻に引かれて斎のへと向かうしかなかった。

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自ドアを抜け、ええとしたの夕暮れの駐へとを踏みす。 由は度も振り返ることなく、に自用へと向かい、助席のドアを無言でけて俺を促した。戸惑いながら乗り込んだ内ので、運転席へと回り込んできた由の横顔を盗み見る。そこに浮かんでいたのは、いつもの穏やかで控えめな妻の表ではなかった。固く結ばれたい唇、微かに見かれた瞳の奥には、何か途方もない覚悟を決めたような、燃えるようない志のが宿っていた。 由はシートベルトを締めると、方をまっすぐに見据えたまま、震える声を絞りした。

「お母さんが……私たちに、最のメッセージを残してくれたのよ」

その言を聞いても、俺のののはれるどころか、ますますまるばかりだった。 妻が体何をっているというのか。最の義母をくしたしみに暮れ、方でこの、喪主である由を差し置いて横暴な振るいを繰り返してきた義兄の正夫婦に対して腹の底から湧きがる憤りをじていた俺は、まさかくなった義母が、俺たち夫婦にこれほどな使命を託していたなどとは、にもっていなかったのだ。

斎から自宅へと急ぎ戻った俺たちを待っていたのは、義母が、れず周到に用していた数々の決定な証拠だった。

男である正によるにわたる預の着。ギャンブルで作った額の借。そして、認症を患い始めた実の母親のの衰えを利用した、あまりにも悪質な犯の記録のすべて。 それらの々しい現実が次々とのに晒された瞬、俺のでもの、い暗の奥底に封印し続けていた「公認会計士」としての魂が、激しいを帯びて蘇っていった。

誰よりも優しく、俺を実の息子のようにしてくれた義母のために。 そして、理尽な仕打ちに耐え忍んできたする妻のために、俺はちがらなければならなかった。 数字のプロフェッショナルとして、そして何よりものとして、切な族を守り抜くための熾烈な戦いが、静かに幕をけようとしていた。

俺の名は田健太郎。今で歳になる。 世般から見れば、どこにでもいるごく平凡なサラリーマンだ。都内にある従業員百らずの企業で、経理部の係として働いている。毎朝に目覚まし計の音で起きがり、妻の由が丹精込めて作ってくれる温かい噌汁と焼き魚の朝を平らげ、押しつぶされそうな満員に揺られながらオフィスへと向かう。は伝票のとパソコンの表計算ソフトに向きい、夕方になれば定し過ぎに退社して、真っ直ぐへと帰る。

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