"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第33話
姉は完全に打ちのめされ、度と言葉を返すことができなかった。
その、テントの裏からガラガラとした濁った声が響いた。いつのにか腕を組んでっていた森田源蔵さんだった。
「……佳代ちゃん、也ちゃん。あんたたちは、最初からきな勘違いをしとるんだよ」
源蔵さんは子を握りしめ、のにみた。
「也ちゃんが断った、わしは倉田君に、『実は妹さんならけるんだが……』とダメ元で聞いたんだ。断られるとっとった。……そしたら倉田君は何て言ったとう? 『妹さんというのは、もおばあさんの介護をご自宅で黙々とやり遂げた、あの優しい遥さんのことですか?』と、真っ先に聞いてきたんだよ」
私は息を呑み、誠治さんの顔を見げた。
「もうもになるが、遥ちゃんのおばあさんの葬式の、わしも親戚として参列しとった。受付の隅っこで、誰からも労われずに黙々と典を数えていた遥ちゃんの姿を、わしはずっと見とったんだ。親戚連が佳代ちゃんをちやほやする裏で、『あのでおばあさんのの世話を全部で取ったのは、あの妹さんだけだ』と囁きっていたのを、わしはで倉田君にポロッと話したことがあったんだよ。倉田君は、その話をずっとに留めておったんだ」
源蔵さんは目を細め、私に温かな差しを向けた。
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「そして、あのお見いのだ。わしのが震えてお茶をこぼした、遥ちゃんは何も言わずに湯呑みを分目で止めて、わしのえたを気遣って温かいお茶を淹れてくれた。……その晩、倉田君から話がかかってきてな。番、こう言ったんだよ。『源蔵さん、俺はあのと緒になりたい。の痛みが分かり、震えるを責めない、あんなに温かいお茶を淹れるはにはいません』とな」
誠治さんはのろを真っ赤にして掻きながら、「源蔵さん、それは言わない約束だったでしょう……」とさく呟いた。
「もうええじゃろ! 遥ちゃんはずっと、自分は姉の代わりだと引け目をじてきてきたんだからな!」
目のが涙で激しく滲んだ。
あの祖母の葬儀の、誰にも見向きもされず、透のように典を数えていた私の姿を、くから見つめていてくれたがいた。
お見いの席で淹れた杯のお茶を、からしてくれたがいた。
誠治さんがファミレスで言ってくれた「今ここへ来たのは、遥さんに会うためです」という言葉は、慰めでも社交辞令でもなかったのだ。彼は最初から、望遥というのを見つけし、選び取ってくれていたのだ。
母の佳代は、しばらく呆然とち尽くしていたが、やがてバッグからハンカチを取りすと、静かに目元を押さえた。
その涙が、悔によるものなのか、恥によるものなのかは分からなかった。
由美さんと咲良ちゃんがそっと私の割烹着の裾を握り、「遥ちゃん、かっこよかったよ」と微笑んでくれた。
姉の也は、最まで謝罪の言葉をにすることはなかった。
けれど、夕暮れのバスへ向かう直、でテントに戻ってくると、蚊の鳴くような声でこう言った。
「……お茶、もう杯だけ……もらえる?」
私は、いヒールで歩き回って疲れ果てた姉の元を見つめ、祖母の急須で、しぬるめの優しいお茶を淹れて渡した。
姉はその湯呑みを両で受け取ると、俯いたまま、最の滴まで静かにみ干した。
空になった湯呑みを返す姉の指先は、微かに震えていた。
バスが到着し、ステップにをかけた母は、振り返らずにぽつりと言った。
「……遥。支度だって預かったあのお……しずつだけど、あなたの座に返すわね。お父さんのことが落ち着いたら、毎の仕送りも……もう送らなくていいから」
「……ありがとう、お母さん」
夕迫るバスの窓の向こうで、母と姉の姿がさくざかっていくのを、私と誠治さんは並んで見送った。
そのの夜、自宅の古い平に戻ると、誠治さんは油ストーブに赤々とを灯した。
の夜はたかったが、部のはのように温かかった。
私は台所にち、祖母の急須に、トメさんから託された極の茶葉を入れ、歩き回ってえ切った誠治さんのために、しめのお茶を淹れた。