"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第32話
元々このお見いのお話は、私のところに来ていたものだったのに……」
そして、姉は振り返り、幼い頃に私のおもちゃを奪うに使っていた、あの猫なで声を私に向けてきたのだ。
「……ねえ、遥。私たち、たったの姉妹じゃない。……私、誠治さんと、もう度ちゃんとお話ししてみたいの。あんた、代わってくれるわよね?」
テントのの空気が、瞬で凍りついた。
周囲にいた由美さんも、お茶をんでいた町の々も、息を呑んでこちらを凝している。
母も調子をわせて、私のにちはだかった。
「そうよ、遥! それにね、お父さんのことよ! 誠治さんの会社には派な施設がたくさんあるんでしょう? お父さんを特等に入れてもらえないかしら! 族なんだから、費用はタダにしてもらえるわよね!? それができないなら、やっぱりあなたが実に帰ってお父さんを介護しなさい! あなたはお姉ちゃんの代わりなんだから!」
代わり。
その呪いの言葉が、再び私のに振りろされた。
昔の私なら、ここで震えがり、涙を呑んで「はい」と答えていただろう。姉が欲しいと言ったものはすべて譲り、母が命じた理尽な犠牲をすべて引き受けてきたのだから。
けれど――今の私の両には、トメさんから託されたあの真鍮の茶筒があった。
机のには、祖母の温もりを宿した欠けた急須があった。
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そして何より、私の目のには、誰の代わりでもない「望遥」というのを見つめてくれた、夫の誠治さんがっていた。
私は茶筒を机のに静かに置いた。
そして、まれて初めて、自分ので、姉の也のに歩踏みした。
「……お姉ちゃん」
私のからた声は、自分でも驚くほど静かで、どこまでも澄み切っていた。
「私はもう、誰の代わりにもならないよ」
姉の笑顔が、ピシリと凍りついた。
「お姉ちゃんが嫌がって断ったから、私がここへ来た。それは本当のことよ。……でもね、この町で暮らして、この町の々にお茶を淹れて、誠治さんの隣にいるのは、お姉ちゃんの代わりだからじゃない。私が、このの隣にいたいとから望んだからよ。……だから、誠治さんのことは、絶対に誰にも譲らない」
姉が息を呑み、ずさりした。
私はそのまま、母の佳代へと向き直った。
「お母さん。お父さんの介護のことは、実の娘として、私も緒に真剣に考えるわ。でも……私がで実に戻って、すべての介護を背負い込むことは、もう絶対にしません」
「な……何を恩らずなことを言ってるの!?」
「おばあちゃんが倒れた、私は、たったで介護を背負わされた。おばあちゃんはくなるその瞬まで、私に『ごめんね、ごめんね』って謝り続けていたわ! 私は……お父さんに、同じいをさせたくないの! 介護されるを『申し訳ない』と絶望させるような介護は、絶対に違っているのよ!」
私の魂の底からの叫びが、れの商に響き渡った。
母は圧倒されたようにを噤み、言葉を失った。
「病院のソーシャルワーカーさんやケアマネージャーさんと、お母さんも緒にちゃんと相談して。使える公サービスやデイサービスを使って、にすりをつけて、族みんなで分担するの。私もに度は必ず帰るし、話も毎週する。……でも、お母さんもお姉ちゃんも、自分たちのできることをやって。お父さんは、お姉ちゃんのお父さんでもあるんだから!」
姉は悔しそうに唇を噛み締め、俯いた。
その、誠治さんが静かに私の隣に並び、母と姉に向かって穏やかに、けれど毅然とした声で告げた。
「お母様。お父様のことで、うちの施設の順番を正に繰りげたり、利用料を免除したりすることは、俺にはできません。順番を待っていらっしゃる町のご族がたくさんいるんです。内だからと特別扱いすることは、福祉に携わるとして絶対に許されません。……ですが、介護の制度やケアプランの相談には、いつでも親に乗ります。夜でも構いませんから、話をください。緒に考えましょう」
そして、誠治さんは姉の也の方を真っ直ぐに見据えた。
「也さん。……俺が結婚したのは、遥さんです。最初から、誰の代わりでもありません」