"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第30話
夜、居の縁側で待っていてくれた誠治さんに、私は実で起きたすべてを泣きながら打ちけた。
「……私、どうしたらいいのか分からないんです。父を見捨てることはできない……でも、また実に戻って、ですべての介護を背負わされたら、私……私のは、またあの暗のへ逆戻りしてしまう……!」
誠治さんは、私の取り乱した姿を静かに受け止め、私のえ切ったを両で包み込んでくれた。
「遥さんが決めることだよ。……実へ戻ると決めても、このに残ると決めても、俺はあなたの決断を尊する。……ただね、どちらを選ぶにしても、で全部を背負い込むことだけは絶対にしないでくれ。俺は介護のプロだ。力になれることは、ほどあるんだから」
その夜、私はもできなかった。
翌、い取りで野の瀬のへ向かい、湯でお茶の準備をしていると、施設がそっと隣に寄り添ってくれた。
「遥さん。倉田さんからしだけ事を伺いましたよ」
施設は、使い込まれた布巾で湯呑みを拭きながら、穏やかに語りかけてくれた。
「私はこの仕事をやってきましたけれどね……宅介護で最初に共倒れになってしまうのは、いつだって『私が全部やらなきゃ』とで抱え込んでしまう、優しい真面目なご族なんです。介護する側が倒れてしまったら、介護されるご本だってに迷ってしまう。
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……だからね、遥さん。で背負わないことは、決して酷でもがままでもありません。それこそが、ご本を守るための、最も正しい勇気なんですよ」
施設のその言葉を聞いた瞬、私の胸の奥くに突き刺さっていた呪いが、ハラハラと音をてて剥がれ落ちていくのをじた。
でして歩く方が、ずっと危ないんだよ――嫁いできた最初の朝に誠治さんが教えてくれたあの言葉が、再び鮮やかに蘇ってきた。
の末、父はリハビリ専の病院へと転院した。
私はに度、必ず台へ見いに通い、父の麻痺したの横に、持ちやすい夫をした湯呑みでお茶を淹れ続けた。父はしずつ言葉を取り戻し、自由な元で「……はる、か……」と私の名を呼んでくれるようになった。
しかし、に入る頃、母からの話はににヒステリックさを増していった。
『お父さんはには退院するのよ! あなたが戻ってこないなら、誰が介護するの!? 来週、也を連れてそっちへ乗り込んで、倉田さんにも直接直談判してやるわ!』
母が指定してきたは、偶然にも、野の瀬商で毎恒例となっているの謝祭の催だった。
その、私は野の瀬のの職員や入所者さんたちと共に、商のテントでお茶とおにぎりを振るうボランティアを担当することになっていた。
れの爽やかなが吹き抜ける謝祭の曜、野の瀬商はの提灯で彩られ、焼きそばや搗きての餅のばしい匂いがち込めていた。
子に乗った入所者のおじいさんやおばあさんたちが、職員たちに付き添われて笑顔でき交っている。
私は公民館のに設営されたテントので、い割烹着を着て、トメさんの茶筒の茶葉を使って次々と湯呑みにお茶を注いでいた。隣では、子ども堂の由美さんと咲良ちゃんが、おにぎりを配って楽しそうに笑っている。
午を回った頃、商のアーケードの入りに、周囲の素朴な景から著しく浮きがったつのが現れた。
派な毛皮のついたジャケットにいピンヒールをカツカツと響かせる姉の也と、デパートで買ったよそきの子を被った母の佳代だった。
畳の隙にヒールを取られてよろめきながら歩いてきた姉は、割烹着姿の私を見ろすなり、元を歪めて嘲笑を浮かべた。
「……何よこれ。田舎の介護士の嫁になったとったら、今度は端でお茶汲みボランティアですか? みっともないったらありゃしないわね」
姉はテントの脇にめてあった、誠治さんのあの古い軽自を瞥し、を鳴らした。
「あのオンボロ軽自、まだ乗ってるわけ? 本当に、何つ持っていない貧乏男なのね」