"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第29話
霊柩が野の瀬のの坂をっていく朝、誠治さんと私は、全職員と共に見送りの列に並んでいた。
棺の、勇さんは私の元へ歩み寄ると、々とをげて言った。
「母がね、息を引き取る直、あの茶筒は遥さんにずっと持っていてほしいと言っていました。……母に、世界で番美い最期のお茶をませてくれて、本当にありがとうございました」
その茶筒は、今でも私の宝物として、台所の箪笥の特等席に切に置かれている。
季節は巡り、々の緑がしずつの気配を帯び始めたの初旬のことだった。
夕の片付けをしていた私のスマートフォンが、けたたましく鳴り響いた。画面には『母』の文字が表示されていた。
いつもおの無ばかりしてくる母からの話に、私は構えながら通話ボタンを押した。
『遥……! お父さんが、お父さんが倒れたのよ……!』
受話器の向こうの母の声は、聞いたこともないほどずり、激しく取り乱していた。
役所を退職してから酒浸りの活を送っていた父が、夕方に居で突然ろれつが回らなくなり、そのまま半を崩すようにして倒れ込んだのだという。救急で台の総病院へ緊急搬送され、された診断は度の脳梗塞だった。
翌朝、誠治さんは施設での仕事を同僚に頼み込み、自ら軽自をらせて、半ののりを経て私を台の病院まで送り届けてくれた。
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集治療のベッドに横たわる父は、点滴の管に繋がれ、苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。識は戻っていたものの、半は完全に麻痺し、言葉を発しようとしても「あ、う……」と掠れた声が漏れるばかりで、悔しそうに顔を歪めて涙をこぼしていた。
昼過ぎになって、ようやく病に現れた姉の也は、価なスーツの袖を気にしながら、
「ちょっと、会社を退してくるの変だったんだからね!」
と文句を並べて、父の変わり果てた姿を目見るなり、気まずそうに病の廊へと逃げしてしまった。
誠治さんは病の入りで両親にく礼し、「何かあれば、いつでも私を呼んでください」と私に温かい缶茶を渡すと、夕方からの夜勤ににわせるために、すぐさま野の瀬町へとをらせて引き返していった。
そのの午、病院の医療ソーシャルワーカーから、今の治療方針と介護保険の申請についての説がわれた。
急性期の治療が終わればリハビリ専病院へ転院し、そのは自宅へ戻るか、施設への入所を検討しなければならないという。
ソーシャルワーカーが退した直、病に残された母は、待っていましたとばかりに私の腕をく掴んできた。
「遥! あなた、今すぐ台の実へ帰ってきなさい!」
「……えっ?」
「お父さんが退院したら、体誰が面倒を見るとってるの!? お母さんは昔から腰が悪くて抱え起こせないし、也は商社の事なお仕事があるのよ! あなたは昔、おばあちゃんの介護をもでやり遂げたんだから、お父さんのの世話だって慣れているでしょう!? 同じ娘なんだから、あなたが戻ってきて面倒を見るのが番自然じゃないの!」
廊から戻ってきた姉の也も、腕を組んで平然と言い放った。
「そうよ、遥。私には無理だから。オムツ替えなんて理に受け付けないし。あんた、そういう臭いお世話、得でしょ? お父さんのためなんだから、男の嫁気取りで田舎に引っ込んでないで、く帰ってきなさいよ!」
病の無質ないを見つめながら、私の全の血が逆流するようなりと絶望が押し寄せてきた。
まただ。
祖母のと、何つ変わっていない。面倒で汚くて辛い役目はすべて妹の私に押し付け、自分たちは全で清潔な所から指図するだけ。
けれど、ベッドのでを震わせ、けなそうに私を見つめる父の顔を見ると、そので「嫌だ」と突っぱねることもできなかった。どんなに理尽な父親であっても、血の繋がった私の父であることに変わりはなかったからだ。
私は、実から病院へ通って父のの回りの世話を伝い、ももボロボロに疲れ果てて野の瀬町へと戻ってきた。