"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第22話
けれど、見らぬ奥に嫁いできた最初の夜にじていたあの凍りつくような孤独と恐怖は、私の胸のどこを探しても、もう度と見つけることができなかった。
翌朝、誠治さんは勤するに商の燃料へ話をかけ、定期な灯油の油配達を配してくれた。話の燃料の主は、「おう、倉田さん! やっと頼んでくれたかね! 奥さんにいソリを引かせちゃいかんよ!」と、豪に笑っていたそうだ。
それからの、の曜のことだった。
解けがみ、肩のフキノトウが黄い顔を覗かせる、誠治さんは私を助席に乗せ、町れのい丘のにある古刹へと連れてってくれた。
野の瀬町の桜は台よりもが遅く、の脇につ齢数百の桜は、まだ分咲きといったところだった。
墓の最奥に、に晒されたさな墓が佇んでいた。『倉田之墓』と刻まれた黒御のに、誠治さんは途ので買った黄い菜のを供えた。
「ばあちゃん、遥さんを連れてきたよ」
誠治さんは墓にしゃがみ込み、静かにをわせた。私もその隣に並び、くをげてをわせた。
お参りを終えた、誠治さんは墓所の段に腰をろし、に広がる町を見つめながら、静かに語り始めた。
「見いのにね、俺も祖母に育てられたって話をしただろう?」
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誠治さんの父親は、距トラックの運転として全国をび回っており、度仕事にれば何もを空けていた。母親は隣のの繊維で昼夜交代の過酷なシフトで働いていた。とも、貧しいがを支えるために必で働いていたのだ。
そのため、幼い誠治さんの面倒を見てくれたのは、祖母のシズさんだった。学の運会にはきなおにぎりを箱に詰めて応援に来てくれ、学で友達と喧嘩をして泣いて帰ったには、何も言わずにいお茶を淹れて話を聞いてくれたという。
「のに親父が過労で急してね。俺は学学を諦めて、元の製材所に就職したんだ。その頃から、ばあちゃんの腰が急激にくなってね……」
誠治さんが歳の、シズさんが自宅ので脳卒で倒れ、半麻痺となってでは活できなくなった。
当、この野の瀬町には齢者を専に受け入れる特別養護老ホームなどはせず、隣の町にも空きベッドはなかった。母親も勤務を辞めるわけにはいかず、若い誠治さんにはどうすることもできなかった。
シズさんは、峠を越えてで以もかかる、くれたの公施設へと入所することになった。
「製材所の休みのはね、軽トラを借りて必ず会いにっていたんだ。
……ある、予定よりく施設に着いて、堂を覗いたの景が、今でも忘れられないんだよ」
誠治さんの声が、微かに震えた。
に喘ぐその施設では、の介護職員が何もの齢者を同に介助していた。職員はシズさんの元へ、流のスプーンを械のように押し込み、シズさんがまだモグモグと咀嚼している最に、容赦なく次のを突っ込んでいた。シズさんが激しくむせ込むと、職員は苛ったように『おばあちゃん、くみ込んでください! 次のが待ってるんだから!』と声を荒らげた。
居に戻ると、ナースコールのボタンは、シズさんの麻痺していないすら届かない、いタンスのに故に巻きげられていた。度なるナースコールの呼びしに、疲れ果てた夜勤職員が対応しきれなかったのだ。
「職員さんたちを責める気には、今でもなれないよ。からったけれど、あの施設では夜、たったの職員が以のお寄りを見ていたんだ。みんな、極限状態だったんだよ。……でもね、そのの面会の帰り際、ベッドの柵越しに、ばあちゃんが俺の作業着の袖を々しく掴んで、泣きながら言ったんだ」
誠治さんは度言葉を切り、喉仏をさせた。
「『……誠治、迷惑ばかりかけて、ごめんねえ……』ってね」
桜の梢を揺らすの音だけが、静寂のに響いた。
「俺を無条件ので育ててくれた好きなが、老いてのを借りるようになった途端に、きていることそのものを『迷惑』だとじて、孫に向かって謝るんだよ。