"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第19話
そして、急須をトレイのにことりと置き、淹れたての温かいお茶が入った湯呑みを、私の目のへとそっと押ししてくれた。
それから――冒の言葉が、何気ない常の挨拶のように、彼のからこぼれ落ちたのだ。
「え、じゃあ千万、渡しておくね」
が、完全に止まった。
湯呑みからちるい湯気だけが、井の裸球のに照らされて、ゆらゆらと揺らめいていた。
「……え? い……千……まん……?」
絞りした私の声は、裏返って奇妙な音をてていた。
聞き違いに決まっている。万円か、あるいは何かの聞き違いで万円と言ったのだ。田舎の特別養護老ホームで働く介の介護士のから、千万などという文学な数字がびしてくるはずがない。
しかし、誠治さんは私の揺をに介するもなく、私の膝のでギュッと握りしめられていたノートに線を留め、穏やかに言った。
「遥さん。……それ、計簿かい? 俺に見せてもらってもいいかな」
私は麻痺した指先で、震えながら学ノートを差しした。
誠治さんは両でそれを受け取ると、卓のに広げ、ページずつゆっくりと捲り始めた。
几帳面にかれた灯油代のレシートの額、防寒靴の領収、お弁当のおかずの細かな内訳、そして毎末に記された「台・母へ 20,000円」という項目。
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その段に、赤インクで痛々しく記された、私の個貯からの補填額の推移。
誠治さんのめくるが、最のページの「残:28,400円」という数字のところで、ピタリと止まった。
い、い沈黙が流れた。
台所の換気扇が回るい音だけが響く、誠治さんは静かにノートを閉じると、両を膝のに置き、私に向かって々とをげたのだ。
「……ごめん。本当に、すまなかった」
「え……? せ、誠治さん、どうして謝るんですか……!?」
「万円で、りるわけがなかったんだ。この厳しいの灯油代のことも、寒さのことも、全部この町で育った俺が番よくっていたはずなのに……俺が気づいてやれなきゃいけなかったんだ。『りなかったら言ってね』なんて無責任な言葉を盾にして、君にこれほどまでのをいて、言いしにくくさせていたのは、ならぬ俺の方だ」
「ち、違います! 私が勝にしただけなんです! 私、お姉ちゃんの代わりとしてこのに来た分なのに……おのことなんて、図々しくて言えなくて……」
私の痛な叫びを聞いた瞬、誠治さんは顔をげ、まるで自分が切り裂かれたかのような、く痛ましい目を向けた。
彼はそれ以何も言わず、静かに子からちがると、居の奥にある押し入れの方へと向かった。
数分、戻ってきた誠治さんの両には、角の緑の塗装が剥げ落ち、属の取っに擦り切れた布が巻かれた、古びた提げ庫が抱えられていた。
「……ばあちゃんが、に切に使っていた庫なんだ」
誠治さんは庫をテーブルのに置き、首からげていたさな鍵を鍵穴に差し込んで回した。カチャリとな属音が響き、蓋がかれる。
から取りされたのは、方の真しい通帳冊と、紺のキャッシュカードだった。誠治さんはそれを、私の湯呑みのすぐ隣に、滑らせるようにして置いた。
「これはね、俺の個名義の座のつなんだ。暗証番号は、俺の誕にしてある。……このの暮らしにかかるおは、今からここから、必な分だけ自由に引きして使ってくれ」
私はテーブルのの通帳を見つめたまま、縛りに遭ったように指先つかすことができなかった。
「けてごらん」
誠治さんに促され、私は震える指先を伸ばし、恐る恐る通帳の表をめくった。
印字された数字のを追っていく。そして、最終に黒々と械印字された残の数字を目にした瞬、私の界が激しく揺れた。
数字の『1』のに、然と『0』がつ並んでいた。
¥10,000,000―
千万円。
「ど……どうして……? 介護士の誠治さんが、どうしてこんなを……!?」
私の震える声に、誠治さんは向かいの子に腰をろし直すと、めかけた自分の湯呑みのお茶を啜り、静かに語り始めた。
「これはね、遥さん。俺が贅沢をしたり、豪遊したりするためのじゃないんだよ。