"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第18話
と静かに言って勤していった。
の終わり、私は商の張所にあるATMへき、自分の通帳を記帳した。
械から吐きされてきたい通帳の最終を見つめた瞬、私の指先が激しく震えた。
嫁いできたに万円あった残は、母への仕送りとの費の補填によって削られ続け、ついに「万千百円」にまで落ち込んでいた。
に入っても、標のいの町の朝晩は氷点くまでえ込む。灯油はまだなくともあとヶは買い続けなければならない。そしての末には、また実の母へ万円を振り込まなければならない。
の朝、茶箪笥のに置かれたい封筒の万円だけでは、の活はどう計算しても破綻していた。
あと、万円。
たった万円の予備費があれば、母への仕送りをこなし、灯油を買い、今を乗り切ることができる。
私はノートの端に、ボールペンで「+30,000」といては消し、いては消した。
どうやって誠治さんに切りせばいいのか、皆目見当がつかなかった。
朝、勤のために靴を履く誠治さんの背に向かって声をかけようとして、喉が痙攣して言葉がなかった。夕の席で、美しそうに肉じゃがを頬張る誠治さんの笑顔を見て、言いしかけた言葉をお噌汁と緒に胃の底へとみしてしまった。
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そうして、胸を押し潰されるような苦しみので、が過ぎった。
の最初の週末、誠治さんの夜勤がない穏やかな曜の晩のことだった。
夕の片付けを終え、台所のさな製テーブルの席に戻ると、誠治さんが珍しく、自ら薬缶のお湯を急須へと注いでいた。箪笥のに置いてあった、祖母のあの欠けた急須だった。
いつもはお茶を淹れるのは私の役目だった。しかしその晩、誠治さんは「今は遥さん、洗濯や掃除で忙しそうだったからね。俺が淹れるよ」と、器用そうなつきで湯呑みにお茶を注ぎ始めてくれたのだ。
私は膝ので、計簿が挟まれたノートの表を、指がくなるほどく握りしめていた。
(……今しかない)
これを逃せば、もう度と言えない。今の計が破綻し、実への仕送りも滞り、すべてが破滅してしまう。
「……誠治さん」
「ん? どうしたかい?」
誠治さんが急須を持ったまま、穏やかな顔で私を振り返った。
私はを決して、パイプ子に座ったまま、テーブルの目に額が触れんばかりの勢いで々とをげた。臓の激しい鼓が、の奥でドクンドクンと爆音のように鳴り響いていた。
「……ごめんなさい! あの……今の活費、あと万だけ……万円だけ、欲しいの……!」
からびした自分の声は、恐怖と恥辱で震えがっていた。
言ってしまった。私はをげたまま、ギュッと固く目を瞑り、奥歯を噛み締めて全を張らせた。
られるに違いない。
「毎万も渡しているのに、何に使ったんだ!」「代わりの分際で、余計なをせびるのか!」と、父のような号がんでくるかもしれない。あるいは、母のようにたい目で呆れ果てられるかもしれない。
私は次にからり注ぐであろう罵声と拒絶の言葉を待ち受け、嵐のの鳥のようにをすくめていた。
しかし――何秒待っても、秒が過ぎても、部のには静寂だけが満ちていた。鳴り声も、舌打ちの音も、何も聞こえてこない。
恐る恐る、張り詰めた首筋をミリ単位で持ちげ、を伺った。
線の先では、誠治さんが急須をにしたまま、まるで未の体でも見るかのように、ぽかんと目を丸くして私を見つめていた。
そして、誠治さんのから漏れたのは、私の像とは百もかけれた、の抜けたような言だった。
「……えっ? 万円で、りるのかい?」
私のの芯が、真っに蒸発した。
万円でりるのか、とは体どういうなのだろう。もっとない額でしろとられるのではなく、りるのかと聞かれているのか。
「……は、はい。万円あれば……なんとか、今を乗り切れますから……」
私が蚊の鳴くような声で途切れ途切れに答えると、誠治さんはますます解そうに眉根を寄せ、首を傾げた。