"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第13話
という見え透いた嘘をついて、姿を現さなかった。誠治さんのご両親はすでに界されており、誠治さんの親族側の席には、源蔵さんが、父親のようにどっしりと座っていた。
事会が終わり、両親を駅きのバスまで見送った。がい散る、ステップにをかけた母は、振り返りもせずに私にこう言い放った。
「じゃあね、遥。向こうのご両親もいないんだから、せいぜい粗相のないように、しっかりやるのよ」
それが、育ててくれた母親が、へと嫁ぐ娘に向けてくれた別れの言葉のすべてだった。バスの排気ガスがく煙る、私はさく会釈をして、りるバスを見送った。
誠治さんのは、野の瀬町のからで分ほどへ入った、静かな清流のほとりに佇んでいた。
築は裕に超えているであろう古い造の平建てで、い縁側とさな入れされた庭があり、瓦根のにはくが積もっていた。かつて、誠治さんを女つで育ててくれたお祖母様が暮らしていたなのだという。
居にはさな油ストーブと掘りごたつが置かれ、黒柱には幼い頃の誠治さんの背丈を刻んだのであろう、あせた無数の傷が残されていた。
段ボール箱から荷物を取りしながら、私の胸のには、再びあの暗いが鎌首をもたげていた。
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(……私はやっぱり、姉の代わりに過ぎないんだわ)
姉が「田舎の介護士なんて貧乏で無理」と吐き捨てて逃げしたからこそ、押しされるようにして私がここへやってきたのだ。この古いで、質素な暮らしを耐え忍び、夫に尽くすことこそが、代わりとしての私の務めなのだと、自分に言い聞かせていた。
段ボールの底から、聞に包まれた祖母のあの欠けた急須がてきた。私はそれを、台所の古い箪笥の特等席にそっと置いた。この見らぬので、私自の過と繋がっているものは、唯この急須だけだった。
そのの夜、簡単な夕を済ませた、誠治さんはこたつの向こう側から、私をじっと見つめて静かにをいた。
「遥さん。……無理に、完璧な妻らしく振るおうとしなくていいですからね。俺はあなたを、誰かの代わりとしてこのに迎えたつもりは、爪の先ほどもありませんから」
私は湯呑みを持ったまま、息を呑んで固まってしまった。
誰かの代わりではない。
のので、両親からも姉からも度だってかけてもらえなかったその言葉を、会ってもない夫から真っ直ぐに告げられたのだ。
「遥さんの部は、奥の畳を使ってください。当たりが良い部ですから。……この町と、このに慣れるまで、あなたのペースでゆっくり過ごしてください」
そう言って誠治さんは、自分の布団を居の隣にある暗い板のに敷きにった。
その夜、見らぬ井を見つめながら、私はい眠りにつくことができなかった。くで、の川のせせらぎが、ゴオゴオとく響いていた。
翌朝から、野の瀬町での私のしい暮らしが本格に始まった。
朝、目を覚まして障子をけると、庭の面が世界のに覆われていた。台では滅に見ることのなかった豪に私が息を呑んでいると、すでに起きていた誠治さんが、玄関から使い古されたゴム靴を持ってきてくれた。
「遥さん、今、とりあえず俺の古い靴を履いてみて。都会の靴じゃ、こののは歩も歩けないからね」
を入れてみると、つま先に握り拳がすっぽり入ってしまうほどきかった。誠治さんはそれを見てさく笑い、「の靴を枚ねて履けば、なんとかなるかな」と言って、庭先で私にの歩き方を丁寧に教えてくれた。
「踵からをろしちゃいけないよ。の裏全体で、を踏みしめるようにしてすりで歩くんだ。……それからね、滑りそうになったら、格好つけずにくの壁や垣に掴まること。転ぶことは恥ずかしいことじゃないんだから。でして歩く方が、ずっと危ないんだよ」
そのの私は、誠治さんのその言葉を、単なるを歩くための実用なアドバイスとしてしか受け止めていなかった。