みかん小説
本棚

"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第11話

私は喉の奥がくなるのを必に堪えながら、震える声で答えた。

「……くなった、父方の祖母です。『お茶はね、むのをよく見て淹れなさい』と、幼い頃からずっと教えてもらいました」

「そうですか」

誠治さんはく、慈しむように頷いた。

「とても、素らしいお祖母様ですね。その教えが、遥さんの指先にしっかりときているのが分かります」

たったそれだけの、い会話だった。

けれど、私の胸の奥底で、何も何も固く凍りついていた何かが、ボロボロと音をてて崩れ落ちていくような気がした。姉のではなく、のとしての私を、このは初めてその目で捉えてくれたのだ。

昼の会席料理を終えた、源蔵さんの「若いで、し川沿いでも散歩しておいで」という計らいによって、私と誠治さんは料亭をて、が吹き抜ける川沿いの遊歩を並んで歩くことになった。

誠治さんは柄な体躯をし丸め、私の歩幅にわせてゆっくりと歩いてくれた。彼は決して数のいではなく、きりになっても、気の利いた冗談や世話を投げかけてくることはなかった。

ただ、葉に染まる並みを見げながら、川のせせらぎに混じって、ぽつりとこう呟いた。

「……俺もね、両親が忙しくて、ほとんど祖母に育てられたんですよ」

広告

それ以の詳しいの話を、誠治さんは語らなかった。私もまた、自分の庭の複雑な事を自分からかすような無粋なことはしなかった。けれど、並んで歩くのに流れる沈黙は、決して気まずいものではなかった。お互いにのに、同じような孤独の傷を抱えている者同士だけが共できる、静かならぎがそこにはあった。

別れ際、夕暮れの線バスの留所ので、誠治さんは背筋を真っ直ぐに伸ばし、々とをげた。

「遥さん、本はいところまでを運んでいただき、本当にありがとうございました。……もしよろしければ、またお会いしていただけますでしょうか」

その言葉をにした、私は胸が締め付けられるような痛みを覚えた。

(……きっと、ただの礼儀作法で言ってくれているだけだわ)

姉の代わりとして、で取り柄のない私が座っていたのだ。本から私を望んでくれるなど、この世にいるはずがない。そう自分に言い聞かせなければ、で断られたの痛みに耐えられないと防本能が叫んでいた。

帰りのローカルのボックス席で、母は窓の暗を見つめながら、吐き捨てるように言った。

「本当に、で冴えない男だったわねえ。まあ、あんたにはお似いかもしれないけれど、どうせ向こうから断りの連絡が入るに決まってるわ。

源蔵叔父さんの顔をてるための義理は果たしたんだから、それで分よ」

母のたい言葉を背で受け止めながら、私は膝ので自分の指先をじっと見つめていた。

誠治さんのあの赤く荒れたの触と、「遥さんのお話を聞かせてください」と言ってくれたあの温かな声が、どうしても私のの芯かられてくれなかった。

ところが、見いからの夜、がの話を鳴らした源蔵さんの声は、母の予を完全に覆すものだった。

『佳代ちゃん! 倉田君がね、“ぜひ遥さんと結婚を提にお付きいをめたい”と、改まって返事をくれたよ!』

受託器を置いた母は、信じられないものを見るような目で私を見つめ、「……良かったじゃない。貰いがあっただけでも、ありがたいといなさいよ」と、どこか満そうに吐き捨てた。

そのの夜、酔して帰宅した姉の也は、リビングでその話を聞くや否や、元をで覆ってクスクスと品に笑い転げた。

「あはは! 本当にあの介護士と結婚するんだ! 良かったじゃない、遥! 毎ジジババのの世話をするの男の嫁なんて、で領の悪いあんたには、これ以ないくらいお似いのポストよ! せいぜいド田舎で慎ましく暮らしてよね!」

姉の嘲笑の刃がに刺さらなかったといえば嘘になる。

けれど、それ以に私の胸を満たしていたのは、あの誠治さんが私を選んでくれたという、信じがたい現実への困惑だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: