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"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第9話

と、誇らしげに独り言を呟いていた。私は膝ので自分のく張った両をぎゅっと握りしめ、ただ流れる窓のい並みを見つめ続けていた。

バスをりた所は、見渡す限りと川と古い民しかない、絵に描いたような静かなあいの集落だった。

料亭「川辺」は、澄み切った清流のせせらぎがよく響く、黒りする太い梁を持ったな造建築だった。玄関の引き戸をけると、で迎えてくれた森田源蔵さんが、焼けした顔をくしゃくしゃにして相好を崩した。

「おお、佳代ちゃん! よういところまで来てくれたなあ! ……そして、遥ちゃん、初めましてだな。よう来てくれた、本当によう来てくれた」

源蔵さんは私の両を両で包み込むようにして、何度も何度もに振って歓迎してくれた。たいに晒されていた私の指先に、源蔵さんの節くれだった温かい掌の温もりが伝わってきた。けれど、そのは寒さのせいばかりではなく、微かな震えを帯びているように見えた。

入れのき届いた庭を臨む座敷に通され、緋毛氈のに座って待つこと数分。約束ののきっかり分、ギシ、ギシと古い廊を軋ませながら、誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。

障子が静かにかれ、敷居を跨いで入ってきた男性の姿を見げた瞬、私はわずさく息を呑んだ。

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背が驚くほどく、がっしりとした頑丈な骨格をしただった。着ているの背広は、丁寧にアイロンが当てられてはいたものの、の端々にらかな経劣化が見て取れ、お世辞にも都会な洗練されたスーツとは言えなかった。く刈り込まれた黒髪は清潔に溢れていたが、ネクタイの結び目は器用そうにわずかに曲がっている。

そのこそが、倉田誠治さんだった。

「本は方からお越しいただき、誠にありがとうございます。倉田誠治と申します。町の『野の瀬の』という特別養護老ホームで、介護士として働かせていただいております」

誠治さんは畳に両を綺麗につき、がにつくほどく、誠実なお辞儀をした。そのあまりにも真っ直ぐで折り目正しい態度に気圧され、私も慌てて々とをげ返した。

顔をげた瞬、私の線は誠治さんの両へと自然に吸い寄せられた。

指の関節のつひとつが赤く腫れがり、皮膚は乾燥してくひび割れ、指先にはさなあかぎれの跡が無数に刻まれていた。

毎、に何回もたいや消毒液にを浸し、お寄りの体を支え、洗濯や入浴介助にけ暮れているのだ――私は目でそう直した。祖母の介護をしていた頃、私のが同じように荒れ果てていたからこそ、そのがどれほどの過酷な労働と優しさを積みねてきたものなのかが、痛いほどよく分かったのだ。

向かい側に座る母は、誠治さんが席につくや否や、品定めをするような鋭い線をそのなりに向けた。

「倉田さん、介護のお仕事というのは、やはり夜勤なんかも頻繁におありなんでしょう? お休みなんかも定期で、お体も随分と酷使されるんじゃありませんこと?」

「はい。に回から回ほど夜勤に入っております。が必な仕事ですので、カレンダー通りの休みとはいきませんが、やりがいを持って務めさせていただいております」

「そうですか……。で、変ち入ったことをお伺いしますけれど、お料の面などは……その、田舎の施設ですと、やはりそれなりなのでしょうねえ?」

母の躾極まりない質問に、横にいた源蔵さんが慌てて顔を変えた。

「これこれ、佳代ちゃん! 見いの席でいきなりそんなの話をするもんじゃないよ!」

しかし、誠治さんは嫌な顔つ見せず、穏やかな、底のい声で静かに答えた。

「いえ、源蔵さん、お母様のご配はごもっともです。……贅沢ができるような分ではございませんが、この町で、慎ましく暮らしていく分には何自由のないだけの報酬はいただいております」

母はそれ以追求することはしなかったが、そのい唇の端には、「やっぱりね、した稼ぎじゃないんだわ」

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