"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第6話
私はただ、しく笑ってそのをごまかすことしかできなかった。そんな奇跡のようなが、姉の引きて役に過ぎない私のに現れるはずなどないと、の底から諦めきっていたからだ。
祖母が歳で往を遂げたのは、私が歳を迎えた厳の朝だった。
葬儀の当、式に集まった縁の親戚たちは、黒い喪にを包んだ母を取り囲み、「佳代さん、にわたるお義母さんのご介護、本当にお疲れ様でしたね」「よくぞあそこまで尽くされました」と、々に涙ぐみながら母の献を称賛した。
母はいハンカチを目元に当てながら、「ええ、本当に……変なでしたけれど、嫁としての務めを果たせてホッとしております」と、しおらしく言葉を詰まらせていた。
その横で、姉は通夜の読経の最に遅れて駆け込んできて、祭壇の祖母の遺に目を向けることもなく、スマートフォンの画面を隠れて確認しながら、ストッキングの伝線を気にしていた。
そして、実際に、祖母の排泄物を拭き取り、夜に何度も起きて体を支え続けた私はといえば、誰からも労いの言葉をかけられることなく、受付の黒い机のろに座らされ、参列者から差しされる典袋の束を無で械のように数え続けていた。
葬儀が終わり、祖母の遺品を理していた、母は台所の隅にあったあのさな常滑焼の急須を指差し、「こんな注ぎの欠けた汚いもの、ゴミ袋に入れて捨ててしまいなさい」
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と吐き捨てるように言った。
私は母が見ていない隙を見計らい、その急須を聞で幾にも丁寧に包むと、自分の部の押し入れの、番奥にある段ボール箱の底くに隠した。それが、祖母がきていた証として、私がこので守り通した唯の形見だった。
祖母のの法が過ぎた頃、望に姉の交際相だという男性が結婚の挨拶に訪れたことがあった。
都内のに勤める、仕ての良いスーツを着た育ちの良さそうな青だった。母は朝くから台所にって豪華な仕し料理を皿に盛り付け、父はアイロンの効いたワイシャツにネクタイを締めて玄関で慇懃に迎えた。私はといえば、まるで料亭の働きの仲居のように、台所と居をりで往復し、お茶を運び、料理を並べ、空いたグラスをげ続けた。
やかな歓談の途、その青が恐縮したように私に目を向け、気を遣った様子で尋ねてきた。
「妹さんは……ご結婚の予定などはないのですか?」
私が返答に窮してお盆を握りしめた瞬、私のを塞ぐようにして母が甲い声で割って入った。
「あら、この子はいいのよ! のことがありますしねえ、遥はずっとにいて私たちを支えてくれる子ですから。ねえ、遥?」
母のたい線が、私を射抜いた。
私はお盆を胸のでく抱え込み、引きつった笑みを顔に貼り付けて、「はい」
とくをげた。
結局、その青との結婚話も、半ほどで姉の方から「なんだか価値観がわない」と方に破談にしてしまった。
母にとって、そして望にとって、私はの自した女性などではなかった。この先もずっと実に縛り付けられ、歳老いていく両親の面倒を見、姉の嫌を取りながら、誰かのの穴埋めとして都よく消費され続けるだけの、便利な政婦に過ぎなかったのだ。
あの頃の私は、自分のというものはそういうものなのだと、完全に受け入れてしまっていた。
姉が華やかな台のでスポットライトを浴びる主役で、私は台裏で埃にまみれて具を運ぶ裏方。誰かが嫌がって投げした面倒な役目を文句つ言わずに引き受け、静かに始末をするのが私の定めなのだと。そうやって自分を納得させ、を麻痺させていなければ、毎朝目を覚ますことすら耐えられなかった。
押し入れの奥底に眠る、祖母のあの欠けた急須だけが、私がこの世界で唯、自分ので守り抜いたさな尊厳の砦だった。
その運命の縁談が望の黒話を鳴らしたのは、私が歳の誕を迎えてもない、の最初の曜の夕暮れのことだった。