みかん小説
本棚

"身代わり花嫁と一千万円の通帳" 第3話

「おお、遥か。おは本当に聞き分けが良いな」

聞き分けが良い。

幼い頃から歳を過ぎるまで、両親が私を評価する際に用いる言葉は、ほとんどそれつだけだった。それは私というそのものをしている言葉ではなく、姉を輝かせるための歯として、文句を言わずに都よく回ってくれることへの都のいい労いに過ぎなかった。

やがて姉は私の女子学を華々しく卒業し、航空会社に採用されて国際線の客乗務員となった。

スカーフを首に巻き、紺碧の制にを包んだ姉のち姿の引き伸ばし写真は、居の最も格式のい飾り棚の央に、の額縁に入れられて鎮座した。親戚や所の々が茶をみに訪れるたびに、母はその額縁を両で恭しく持ちし、「うちの也は本当に自の娘でしてね」と、誇らしげに語って聞かせるのが常だった。

姉は歳で航空会社を寿退社――ではなく、規則な活に飽きたという理由であっさりと退職し、そのは都内の等に本社を構える総商社の総受付へと転職した。ガラス張りの超層ビルのエントランスで、企業の顔として微笑む姉の元には、社内のエリートたちからの事の誘いや贈り物が絶えなく届いているらしかった。

方で、私のの選択肢は、常に姉の輝かしいのでさく切り縮められていった。

広告

の、私は指導で担任の教師と向きい、県の国学で管理栄養士の資格を取るための勉がしたいのだと打ちけた。普段から控えめだった私のを汲み取ってくれた担任は、「望さんなら推薦入試で分に格ラインに届く。実をれることになるが、挑戦してみる価値はある」と力く太鼓判を押してくれ、私は胸を弾ませて学案内と願を取り寄せた。

しかし、その封筒を自宅の居の机のに置いた夜、私のは母の徹な言によって々に砕け散った。ちょうどその、学だった姉が、休みにイギリスへ語学留学することが決まっていたのだ。

「也のロンドン留学にはね、百万円単位のまとまったおがかかるのよ」

母は私の取り寄せた学案内を瞥もすることなく、湯呑みをテーブルに置いてため息をついた。

「遥、あなたは実から自転で通える元の期学にしなさい。女の子がわざわざ県にて暮らしをする必なんてないでしょう。あなたは昔からしっかりしているんだから、をて元の会社で事務でもすれば、どこでだって堅実にやっていけるわよ」

しっかりしているから、しなさい。

母のからる「しっかりしている」という言葉は、いついかなるも「おがを引いて姉にすべてを譲りなさい」

という非な宣告と同義だった。

私は自分の部に戻り、机の引きしの奥から取りした学のパンフレットを、誰の目にも触れないようゴミ袋の底へさく丸めて押し込んだ。

歳を迎えたの成式で私がにつけた赤い振袖も、の成式で姉が着古したおがりだった。姉が着たにはぴたりとっていたはずの裾は、姉より柄な私の元では恰好に弛み、袖の裏には姉がパーティーでこぼしたワインの染みがく残っていた。

写真館で形ばかりに撮された私の記写真は、台に貼られて焼き増しされることもなく、母の寝の理箪笥の暗い引きしの奥へと直した。居の飾り棚のには、プロのヘアメイクによって輝くように美しく撮された、姉の巨な成式の肖像写真が、依然として燦然と輝き続けていた。

同じの、姉は学の同窓会に席するためだと母にねだり、デパートの特選呉売りへと母を連れてかけていった。そのの夜、居の畳面に広げられた数万円もする豪奢なの訪問着をに、母と姉が嬉々として帯の柄をわせている景を、私は台所の隅からで見つめていた。

「……すごく、綺麗なお着物だね」

私が絞りすようにそう呟くと、姉は鏡に映る自分の顔の角度を微調しながら、「まあね、私にはこれくらい品なじゃないと似わないから」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: