"母の友達" 第9話
「そんなことして、何になるんだよ」
私のから、乾いた声がこぼれた。昨夜あれほど父の仕打ちに打ちのめされたはずなのに、言葉の端々には、母のを押しとどめようとする苛ちが混ざっていた。
「父さんはもうんだんだ。墓のにいるを告発して、親戚や所にられたらどうするの。昔の正請求の端したのことだって、調べられたら恥をかくだけじゃないか」
「恥?」
母がゆっくりと顔をげた。
「誰が恥をかくの。んだお父さん? それとも、京の会社でまともに働いているあなた?」
「母さんのためをって言ってるんだ!」
気がつけば、声が荒くなっていた。
「母さんは昔から気がさくて、押しにいところがあるだろ。あの森ってだって、本当に信用できるのか? 昔は父さんに言われるがまま正の類に印鑑を押してたなんだぞ。今になって母さんにづいて、何か企んでるかもしれないじゃないか。母さんじゃ、役所の連や世の目に耐えられないよ」
母は黙って私の顔を見ていた。 るでもなく、しむでもなく、ただたい井戸の底を覗き込むような目で、私の元を観察していた。
その沈黙に耐えかねて、私はさらに言葉をねた。
「父さんの荷物は僕が全部業者に頼んで処分する。母さんがで暮らすのがなら、京のくに齢者向けのしっかりしたマンションを探すから。
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費用は僕がす。だから、あんな昔の類を引っ張りして騒ぎてるのはやめてくれ。母さんは何もしなくていいんだ。僕が全部、ちゃんとするから――」
母が、ふっと息を漏らした。 微かな、乾いた笑いだった。
「悠介」
母の声は、驚くほど静かだった。
「あなたのその顔。……お父さんにそっくりね」
喉の奥で、言葉が凍りついた。
「え……?」
「その座り方も、眉に皺を寄せる癖も。相のためをって言ってるんだって置きをしてから、相が何もできない無力なだと決めつける言いも。全部、お父さんが私に向かって言っていたことと、寸たりとも違わないわ」
臓を素で握られたような衝撃がった。
子からちがろうとしたが、に力が入らない。 「気がさくて、押しにい」「じゃ何もできない」「何もしなくていい、僕が全部ちゃんとする」――今、自分のから滑りたそれらの言葉が、かつて父が母を寝に閉じ込め、との繋がりを遮断するために使い続けていた台そのものであったことに、遅まきながら気づいた。
私は母を配していたのではなかった。 父が以かけて作りげ、私のに刷り込んできた「病でれな母」と「それを守る能で正しい男」という庭の構図が壊れるのが、ただ怖かったのだ。父の欺瞞を激しく糾弾しながら、私自がその父の形をした鋳型に、すっぽりとはまり込んでいた。
「私はね、悠介」
母は静かに湯のみを置いた。
「お父さんに守られていたんじゃないのよ。あのが作った『理の庭』という額縁のに、息を殺して飾られていただけなの。あなたが京へって、お父さんが病気になって、ようやく私はこので息ができるようになった。佳代さんが来てくれたから、私はぶりに、自分ので過を歩き直せるのよ」
母の瞳には、かつて私がっていたような、父の顔を窺う怯えは微もなかった。 そこには、の老いた、しかし自した志を持つ女性の輪郭が、くっきりとち現れていた。
「あなたに養ってもらう気はないわ。京のマンションもいらない。私はこので、自分のやり方できていくから」
私は何も言えなかった。 テーブルのの『訂正ノート』が、朝を浴びてくっていた。父が残したあの文字の牢獄から抜けしたのは母であり、その牢獄の鍵を事に握りしめたままち尽くしているのは、私の方だった。
勝のチャイムが鳴った。 控えめな、度だけのい子音。
母はちがり、勝へ向かった。ドアをけると、朝のたい空気とともに、のウインドブレーカーを着た佳代さんの姿が見えた。
「おはようございます、恵さん。ゴミし、伝うわね」
「おはよう、佳代さん。