"母の友達" 第2話
「入れなかったわよ。悠介さん、おネギの青いところ、昔から苦だったでしょう? が通ってても嫌がるって聞いてたから」
佳代さんは悪びれもせず、当然のことのように微笑んだ。
私の背に、たいものがった。
子どもの頃、私がネギの青い部分を嫌ったのは事実だ。だがそれは学の学あたりまでの話で、をて暮らしを始めてからは普通にべるようになっていた。今や同僚とのみ会でも鍋のネギを平気でにしている。
歳になった私の、以の細かな偏を、なぜこの初対面の女がっているのか。
「お母さんが話したんですか?」
私が母に線を向けると、母は箸をかしたまま、曖昧に目を伏せた。
「……さあ、どうだったかしら。昔の世話のついでに、ねえ」
「世話って、僕の好き嫌いなんてわざわざ話すようなことじゃないだろ」
「いいじゃないの、せっかく作ってくれたんだから。美しくいただきなさい」
母の声には、話題をこれ以広げたくないという警戒が滲んでいた。 佳代さんはの空気を気にするもなく、際よく煮物を母の皿に取り分けた。その指先には、事に慣れた特のさな切り傷がいくつもあった。
「でも、悠介さんが派な社会になられて、本当によかったわ。子どもの頃は体がくて、よくをしていたから。
広告
……そういえば昔、階の押し入れで、子猫をこっそり飼おうとしたことがあったわよね」
カチャリ、と箸が茶碗の縁に当たる音がした。
私は佳代さんの顔を凝した。
学の。所の神社の裏で、を怪して鳴いていたトラ猫の仔を拾った。父は物の毛のアレルギーがあり、でき物を飼うことは固く禁じられていた。見つかれば即座に保健所へ連れてかれるとい詰めた私は、自分の部の押し入れの奥、使っていない客用布団の隙に段ボール箱を押し込み、、のパンをポケットに入れて持ち帰ってべさせていた。
目の朝、目を覚ますと段ボール箱は消えていた。 父は何も言わなかった。母も何も言わなかった。猫がどうなったのかを聞くことすら恐ろしくて、私はその件を誰にも言えず、歳を過ぎるまでの奥底に封印していた。
両親に話した覚えはない。父にも、母にもだ。見つかった形跡すらなく、神隠しのように消えた事件だった。
「なんで……それを」
声が掠れた。 佳代さんは私の揺をに介さない様子で、穏やかに目尻をげた。
「恵さんから聞いたのよ。押し入れの奥からさな鳴き声がして、びっくりしたっておっしゃってたわ」
私は母を見た。 母は湯呑みを両で包み込んだまま、線を畳に落としていた。
指先が微かに震えていた。
「……お母さん、ってたの?」
沈黙が数秒続いた。古い柱計の振り子の音だけが、やけにきく響いた。
「……ええ。ってたわよ。お父さんには内緒にして、病院へ連れてったの」
母の調は平坦だった。まるで、あらかじめ用されていた台を読みげているかのような自然な響きがあった。
「あの猫、どうしたの」
「の当てをしてね、もらってくれるを探したのよ。ちゃんと優しいおうちに引き取られたわ。……もう昔のことじゃないの。めないうちにべなさい」
母はそれ以、私の顔を見ようとしなかった。
事が終わると、佳代さんはく器をげ、流しで洗い始めた。母が伝おうとすると、「恵さんは座ってて。今は腰が痛むって言ってたじゃない」と制した。そのやり取りは、まるで同居している嫁姑か、あるいは実の姉妹のようだった。
午を過ぎた頃、佳代さんは「じゃあ、今はこのへんで」とエプロンをした。 勝ではなく玄関へ向かう彼女のろを、私は無言でついていった。
佳代さんは式台にり、自分のエンジのサンダルにを入れると、壁にを伸ばした。 迷いがなかった。
玄関のから見て、廊の曲がり角の柱のにある、古いトグル式のスイッチ。 からは見えず、このにんでいるでなければ、そこに照のスイッチがあることすら気づかないような角にある。