"鍵をかけた部屋で、誰かがシャワーを浴びている" 第10話
どうする。由佳を問い詰めるか? 話をかけて、「これは何なの」と叫ぶか?
駄目だ。本能が警鐘を鳴らしていた。 由佳に連絡してはいけない。彼女はもう、私のっている「し頼りないけれど優しい親友」ではない。自分の活や保のために、平気での常を侵し、犯罪の痕跡を押し付けることのできるだ。今連絡すれば、何を言い訳されるか分からない。あるいは、力ずくでこの袋を奪い返しに来るかもしれない。
警察にかなければならない。
私はちがり、台所から番きな青いゴミ袋を持ってきた。袋をしたのまま、黒い塊をそのに押し込む。、に袋をね、を固く縛った。 その袋を抱えげたとき、ずっしりとしたみが腕に伝わってきた。の悪と欺瞞が凝縮されたような、気な質量だった。
計を見ると、午を回っていた。 私は着替えもそこそこに、きなボストンバッグにその青い袋を押し込み、ファスナーを閉めた。財布とスマートフォン、そしてしく交換したばかりのディンプルキーをポケットに突っ込む。
玄関ドアをける、ドアスコープからを覗いた。 誰もいない。静かな共用廊があるだけだ。 鍵をに回し、にマンションをた。
差しのい、のだった。 駅の商には自転を押す主婦や、昼に向かうサラリーマンの姿があり、あまりにも常で穏やかな景が広がっていた。
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そのを、私は血染めのエプロンを抱えて、逃げるようにで歩いた。
向かったのは、駅の交番ではなかった。 昨対応してくれた若い巡査では、話が通じない直があった。私はタクシーを拾い、「練馬警察署まで」と告げた。
警察署のロビーは、独特の静けさと緊張に包まれていた。 総窓で「自宅で、事件に関係しているかもしれない審な物を見つけました」と告げると、女性職員の表が引き締まり、奥の内線話を取りげた。
分ほど待たされた、柄な初老の男性刑事が現れた。刑事課の武田と名乗ったその男は、私の青ざめた顔と、元に置かれたきなボストンバッグを鋭い目で見比べ、「こちらへ」と廊の奥の相談へ案内した。
のスチール机とパイプ子が並ぶ、畳半ほどの無質な部だった。 壁にはカレンダーと、事件報提供を求めるポスターが何枚か貼られている。
「それで、梨さん。そのバッグのは?」 武田刑事が帳をきながら尋ねた。
私は袋をし、震えるでバッグのファスナーをけた。から青いポリ袋を取りし、結び目を解いて、幾にも巻かれた黒いビニールと、透テープで固められた塊を机のにした。
部の空気が変した。 ビニールの裂け目から漏れした漂剤と腐敗臭の混じった匂いに、武田刑事の眉がピクリとねた。
「……けてもいいですか」 「はい。昨の夜、洗面台のの配管スペースから見つけました」
武田刑事は引きしからゴム袋を取りして嵌め、ハサミを使って慎にテープを切りいていった。 から、あのピンクのエプロンと、血痕のついたタオルが現れる。
武田刑事の目が、細く険しくなった。 彼はエプロンの裾を指先で持ちげ、化した染みのいと、胸元の刺繍をじっと見つめた。そして、隅に貼られた配送伝票の控えに目を留めた。
『埼玉・川 Tajima Esthe(田島)』
武田刑事は伝票の文字を指でなぞると、顔をげ、私をまっすぐに見据えた。
「梨さん、これを見つけた経緯を、最初から詳しく話してください。隠し事なしで」
その調は、昨の交番の警官のような呑気なものではなかった。確に「事件」の匂いを嗅ぎ取った捜査員の、徹で事務な圧力があった。
私は、張から戻った夜のことからすべてを話した。 鏡の曇り、排の栗の髪、真夜に浴から聞こえたシャワーの音。「今はどうしてこんなにく起きちゃったの?」という声。警察を呼んだが誰もいなかったこと。鍵を交換したこと。 そして、隣の目撃証言から、侵入者が来の友である宮澤由佳だと判したこと。 彼女を問い詰めた際、「賃が払えず、シャワーを借りに来た」