"鍵をかけた部屋で、誰かがシャワーを浴びている" 第9話
胃が激しく収縮した。 息を止め、震えるで黒いビニールを側へと剥ぎ取っていく。
から現れたのは、透な圧縮袋だった。 そのに、きれいに折りたたまれた何枚もの布が真空状態で密閉されていた。
番にあったのは、いピンクのエステサロン用のスタッフエプロンだった。 胸元に、品なロゴが刺繍されている。
そのエプロンの腹部から裾にかけて、広範囲にわたって、赤黒い、カピカピに乾いて布を化させた巨な染みが広がっていた。漂剤で何度も洗おうとしたのか、輪郭がく滲み、まだら模様になってを汚している。
染みだけではなかった。 エプロンのには、同じように赤黒く汚れた判の施術用タオルが枚、そして、引きちぎられたようなボタンと、誰かの私物らしき破れたカーディガンが緒に押し込められていた。
そして、圧縮袋の隅に、枚の配送伝票の控えが貼り付けられていた。 品名欄には「リネン類(洗浄済み)」。 依頼主の欄には、印刷された文字でこう記されていた。
『埼玉・川 Tajima Esthe(田島)』
呼吸が止まった。
シャワーを借りに来たのではなかった。 由佳は、私のを「呂」として使っていたのではない。
この女は。 警察にも、職にも、誰にも見つかってはならない『何か』の痕跡を、留守の私の部に持ち込み、私の浴で洗い流し、そして、私の洗面台の奥に隠していたのだ。
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に転がった黒い塊を見つめたまま、私は歩もけなくなっていた。 換気扇の回る無質な音だけが、くるい洗面所に虚しく響き続けていた。
洗面所のいのに転がった黒い塊から、線をすことができなかった。
換気扇が回る無質な音だけが、狭い空に満ちている。 破いたビニールの隙から漂い続ける、塩素系漂剤のツンとをつく刺激臭。そして、その奥からじわじわとちってくる、鉄錆のような、温かい饐えた臭気。
胃の底がえ切っていく。 指先が微かに震え、使い捨てのポリエチレン袋がカサリと音をてた。
私は膝をついたまま、もう度そのエプロンの布に目を凝らした。 淡いピンクのに広がる、巨な赤黒い染み。漂剤を原液のままぶちまけて擦り洗いしたのか、繊維が毛羽ち、変した斑点があちこちに散っている。しかし、完全には落ちきっていない。布の奥くまで染み込んだ素が、乾いて直したゴワゴワの触となって残っていた。
エプロンのから覗く、引きちぎられたブラウスのボタン。破れたニットの切れ端。 そして、端に貼り付けられた配送伝票の控え。
『埼玉・川 Tajima Esthe(田島)』
由佳の職だ。 彼女はほどから、川駅の雑居ビルに入っているその個経営のサロンで働いていた。
チェーンではなく、代半ばの男性オーナーがで回しているさな舗で、料の未払いが続いていると、以居酒で愚痴をこぼしていたのを覚えている。
これが、仕事の荷物? リネン類の洗濯?
そんなわけがない。仕事の洗濯物なら、なぜ夜にのに忍び込み、の呂で洗う必があるのか。なぜ何ものビニール袋に密閉し、配管の奥の暗に隠さなければならないのか。
これは、洗わなければならなかったのだ。 誰の目にも触れさせてはならない所で、誰にもられないうちに、痕跡を消しるために。
そして、あの夜。 私が寝で眠っているすぐ隣で、由佳はこの血塗られた布を広げ、私のシャワーの湯を使って、擦り洗いをしていたのだ。
像した瞬、激しい悪寒が背筋を駆けがった。 喉の奥が痙攣し、洗面台の陶器にをついて激しくえずいた。胃液の苦いがのに広がる。
私のだ。 私が賃を払い、私が靴を脱ぎ、私が素で歩いている私のだ。その最も無防備であるはずの浴で、あいつはの血を洗い流していた。
由佳の最の顔が脳裏に焼き付いてれない。 「……お呂ののところ、何か触った?」 あの据わった瞳。あれは、友の破綻を恐れる目ではなかった。 隠蔽が暴かれることを恐れる共犯者の目だった。
私はにへたり込んだまま、荒い呼吸をえようとした。