"鍵をかけた部屋で、誰かがシャワーを浴びている" 第8話
つは、に入院した際に複製したという古い型の鍵。 もうつは、昨、私が「部を守って」と渡したばかりの、真しいディンプルキーだった。
本の鍵が、カチャリと乾いた音をてて並ぶ。
「もう度と、私のに現れないで」 私は由佳の顔を見ずに言った。「警察には言わない。あなたの職にも言わない。でも、友達としては今で終わり。今すぐていって」
由佳は息を呑み、何かを言おうとをきかけたが、私の徹な線に射すくめられ、力なくうつむいた。 「……ごめんなさい」
彼女はちがり、ふらつく取りで玄関へと向かった。 私はリビングのソファにく沈み込み、両で顔を覆った。終わったのだ。幽霊でも、猟奇な殺鬼でもなかった。ただの、活に困窮した友の浅ましい裏切りだった。
これで、今夜からはして自分の部で眠ることができる。 そうった。
ガチャリ、と玄関ドアがく音がした。 だが、閉まる音がしない。
数秒の沈黙のあと、玄関から、靴を履いた由佳の微かな気配が戻ってきた。
「……何?」 私がリビングの入りへ目を向けると、由佳がドアの隙から、半分だけ顔を覗かせていた。
その表は、先ほどまでの激しい涙や座の醜態とは、まるで違っていた。 涙の引いた瞳が、異様に据わったような、たいを宿して私を見つめていた。
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「ねえ、紗織」
喉の奥から絞りすような、掠れた声だった。
「……お呂ののところ、何か触った?」
臓が、ドクンと嫌な音をてて脈打った。
「……何のこと?」
私が問い返すと、由佳の元が、わずかに引きつるように歪んだ。
「ううん。なんでもない」
彼女はそれ以何も言わず、今度こそ勢いよく玄関ドアを閉めてていった。 バタン、というい属音が部に反響し、やがて消えった。
静寂が戻った部で、私はち尽くしていた。
お呂ののところ。
由佳の最のあの目。 あれは、友を失ったことを悔やむの目ではなかった。 自分の犯した罪のさに怯えるの目でもなかった。
もっと差し迫った、別の何かが暴かれることを恐れている目だった。
私は吸い寄せられるように、廊を歩き、洗面所へと向かった。 照をつける。く清潔な洗面台がそこにある。
昨の午、由佳がしゃがみ込み、「をアルコール消毒した」と言っていた所。 ガラガラと引きしをけ、配管の奥を弄っていた音。
私は膝をつき、たいクッションフロアにをついた。 洗面台の最段。入居以来、度もけたことのなかった、配管メンテナンス用の細い引きしの取っにをかける。
引きしをいっぱいに引く。 は空っぽだった。埃の溜まったプラスチックの底板が見えるだけだ。
だが、引きしを完全に引き抜いてすと、その奥に、壁の膏ボードと板の隙――配管がへと潜り込んでいくための、暗いメンテナンススペースがぽっかりとをけていた。
スマートフォンのライトを点灯させ、その暗がりを照らした。
奥の、塩ビパイプのに。 何かがあった。
を伸ばすのを、本能が拒絶していた。 だが、触らなければならない。由佳が最に残したあの言葉のを、確かめなければならない。
私はキッチンへり、使い捨てのポリエチレン袋を両にはめた。 再び洗面所へ戻り、をかがめて、暗い隙の奥へと腕を突っ込んだ。
指先が、カサリといビニールの触に触れた。 奥に押し込まれていたそれを、慎にへと引きずりす。
それは、黒い業務用のゴミ袋だった。 が何にもきつく巻かれ、わせ目は幅広の透な梱包用OPPテープで、これでもかというほど厳に目張りされていた。ずっしりとした、湿ったみがある。
洗面所ののに、その黒い塊を置いた。 きさは、角いクッションほど。だが、持った触は柔らかく、布のようなものが量に詰め込まれているようだった。
ハサミを持ってきて、幾にも巻かれた透テープに刃を入れた。 ピリピリとビニールが裂ける。
その瞬、裂け目から、ツンとした刺激臭がを突いた。
い塩素系漂剤の匂い。 そして、その奥からちってくる、鉄錆のような、臭い、嗅ぎ覚えのない饐えた臭気。