"鍵をかけた部屋で、誰かがシャワーを浴びている" 第3話
私は息を止めた。喉が痙攣しそうになるのを必で耐え、歩、ずさりをしようとした。
折れ戸の向こうから、擦れの音ではなく、濡れたの裏がプラスチックのを吸い付くように歩くペタペタという音がした。そして、ドアのすぐで止まった。
ドアの向こうと、こちら。 わずか数センチのいプラスチック板を挟んだだけの距に、見らぬ誰かの気配がある。
臓が止まるかとったその瞬、折れ戸の向こうから声がした。
「今はどうしてこんなにく起きちゃったの?」
を疑った。
囁き声ではない。怯えも、緊張も、構えた様子も微もない。 まるで緒に暮らしている族か同居に、夜に目が覚めてトイレに起きてきた相にかけるような、あまりにも自然で、穏やかな、聞き慣れた調子の女性の声だった。
私は声がなかった。全の毛穴がき、や汗が背を滑り落ちていく。
私の沈黙をどう受け取ったのか、ドアの向こうのが、ほんのしを傾げるようなき配を見せた。
そして、ため息混じりに、優しく言った。
「もう戻って寝なよ。すぐ終わるから」
その言葉の響きに、底れぬ狂気をじた。
このは、ここが私の部だとっている。 そして、私がいつも何に起きるのかをっている。
侵入者ではない。盗でもない。
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この女は、まるで自分がこの部の主であるかのように、私の活リズムを把握したで、私に「寝へ戻れ」と指示しているのだ。
パニックが頂点に達し、私は声にならない鳴をみ込んで寝へ駆け戻った。 ドアを乱暴に閉め、内鍵をかけ、ベッドの脇にへたり込みながら震えるで〇番を押した。
「事件ですか、事故ですか」 「たす……助けてください、が、にが入ってきて……」 「落ち着いてください。所を言えますか」
喉を締めげられたような声で練馬区の所とマンション名を告げるも、廊の気配に神経を研ぎ澄ませていた。から何かを引きずるような音、カチャリと属が擦れう音が聞こえた気がした。
「今、警察官が向かっています。部の鍵をかけて、絶対ににないでください」
通話のオペレーターの声がく聞こえる。 分が、にもじられた。
やがて、くからサイレンの音がづいてきて、マンションの真で止まるのが分かった。エントランスのインターホンが鳴り響く。私は震えるでインターホンの通話ボタンを押し、オートロックを解除した。
階段を駆けがる複数の音が廊に響き、玄関ドアが激しく叩かれた。
「警察です! けてください!」
ドアチェーンをし、補助錠を解錠してドアをけると、の制警官が息を切らしてっていた。
「丈夫ですか! どこにいますか!」 「お、お呂です……さっきまで、に……」
警察官がが警棒を構え、靴のまま廊へ踏み込んでいく。もうが私の肩を抱くようにして玄関のへ促した。
「おい、誰もいないぞ!」 奥から声ががった。
「え……?」 「窓も閉まってます。ベランダ側も施錠されてる。誰もいませんよ」
そんなはずはない。私は警察官の制止を振り切るようにして、廊の先を覗き込んだ。
浴の折れ戸はけ放たれていた。 換気扇がけたたましい音をてて回り、内にはまだ温かい湿気と、青臭い柑橘類の料の匂いが充満していた。すのこのには真しい滴が散乱し、鏡は湯気で真っに曇っている。
浴槽の縁に、枚のタオルが掛けられていた。 の、どこかの温泉旅館の号が入ったようなっぽいフェイスタオル。それはびっしょりと濡れ、触れるとまだぬるい温もりが残っていた。
私のものではない。私のには、あんな粗品のようなタオルは枚も置いていなかった。
玄関ドアの鍵は、から正常にけられ、そして逃に再び閉められていた。 補助錠は、私が内側から両面テープで貼り付けていたものだったが、ドア枠側の受け具が根元からポロリとれ、に転がっていた。急いで無理やり押しけられた衝撃で、粘着テープが耐えきれずに剥がれたのだ。
「鍵を使われた能性がありますね」 配の警察官が、懐灯で鍵穴の周囲を照らしながら言った。