"末席の男が放った三百億の通告" 第37話
貞子は元を覆ったをろした。その瞳から、粒の涙が次々と溢れし、テーブルの目を濡らしていった。
「……なんで、今まで言ってくれなかったの?」
「言う会を、作らなかったからだ。作らなかったのは、俺のさだよ」
貞子は首を横に振った。声をてずに、静かに泣いていた。
「あの頃、周りのも友達も、みんな俺のことを『な貧乏』として見てた。担任の先ですら、『無理しなくていい』ってれんでたんだ。……おだけだったんだよ。『サボってるわけじゃない、働いてるだけだ』って、俺のき方を認めてくれたのは。まれて初めて、ちゃんと頑張ってるとして見てもらえた気がしたんだ」
「……げさだよ」
「げさじゃない」
俺は、ノートの裏表の文字を指先でなぞった。
「会社をちげて、資繰りでき詰まってにそうになった夜も、俺はいつだってこの言葉をいして踏みとどまってきたんだからな」
貞子は何も言わなかった。言わないまま、両をノートのにねた。
の自分の文字を、慈しむように温めていた。
港堂の豚汁は、消費税の増税や物価のせいで、昔のような百円ではべられなくなっていた。
それでも、のさは寸分違わず昔のままだった。
同じだと言い切ることができたのは、こので、あの頃と何つ変わらないを持ったと、真っ向から向かいっていたからだった。
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そのの来事について、しだけき残しておく。
久エリは、付で正式な懲戒処分を受けた。
本の形である経営企画部を追われ、県部のにあるさな支の、般窓担当へと遷された。役職は剥奪され、平の員としての再発だった。
預通帳の再発をい、所変更の届を受理し、の受続きの相談に乗る。
同窓会の夜に『税で本を並べて座ってるだけ』と嘲笑した司の仕事と、何つ変わらない、で臭い窓業務を、彼女は今、自らのでこなしている。
周囲の員たちは、もはや彼女を特別扱いすることはない。取の娘であることは誰もがっているが、父親自が『度と私の名をすな』と宣言し、内事に切のしをしないことを誓約したからだ。
虎の威を借る言葉をすべて奪われ、彼女は今、自らの実力だけで評価される、厳しい現実の俵にたされている。
の初め、京の本社に、通の封が届いた。
久エリからのだった。
宛名は『あさぎホールディングス 代表取締役 堀弘様』。
便箋枚にわたって、あの夜の非礼に対する謝罪の言葉が、飾り気のない文字で綴られていた。そしての最には、窓で齢の預者から名を呼ばれ、「ありがとう」と謝の言葉を掛けられたの来事が、く記されていた。
取の娘としてではなく、の窓担当者として謝された、まれて初めての経験だったという。
俺はそのを最まで読み終え、返事はかなかった。
だが、破り捨てることもしなかった。デスクの番の引きしの奥へと、静かに収めた。
久隆史取に名刺を返却した今、元に残った彼女の跡は、その枚の便箋だけとなった。それで分だった。許すとも許さないとも決めてはいない。それは、俺が決めるべき類のものではなかった。
幹事の松本からは、にいメッセージが届いた。
『来の同窓会も、俺が幹事をやることになった。……名札の職業欄は廃止することにしたよ。席順も、当の完全なくじ引きにする』
岡崎からのメッセージは、俺が度も返信を寄越さないのを見て、いつのにか届かなくなった。
王は、潰れてなどいない。
潰す必など毛なかったし、俺にそんな権利もない。
百億円の資のへの移は、の初旬にすべて平穏に完した。決済数料の喪失、関連会社社との取引縮、そして域最のトップ法のメイン座を失ったという信用の失墜。が被った打撃は極めてであったが、経営破綻に至るようなものではなかった。それで分だった。
京支の杉支は、最の送が完するそのまで、何つミスを犯すことなく完璧な事務続きを貫徹してくれたという。