"末席の男が放った三百億の通告" 第31話
提された帳簿には、その板枚の購入代まで、円単位で正確に記されていました」
久取は、いを繰り寄せるように目を細めた。
「担保になるものは何もなかった。しかし、帳簿と仕事に向きう姿勢だけは、完璧でした。私が度類を突き返したのは、備があったからではありません。あなたが本当に、この運送業という臭い仕事に骨を埋める覚悟があるのかどうか、その本気度を試していたのです。……度目に提された類は、度目とは何つ変わっていませんでした。『これ以、削れる無駄も、盛れる見通しもありません』と、あなたは私を真っ向から見据えて言い切った。だから私は、融資を通したのです」
久取は度目を閉じ、さく息を吐いた。
「その、私は本へ栄転し、堀運送の担当をれました。その、あなたが拠点を京へ移され、急成を遂げられたことは、法営業部の資料を通じて聞き及んでおりました。私が取に就任してからの、法営業部を通じて毎のように表敬訪問を申し入れましたが、御社からは常に『代表忙につき』とご辞退いただいていた。……資料に記された『堀弘』という名を目にするたび、あのの若者ではないかとったこともありました。しかし、あの古トラック台の青が、売千億円、千名を率いるあさぎホールディングスの創業者と同物であるとは、どうしても結びつかなかったのです」
広告
久取は言葉を切り、俺をじっと見つめた。
「曜の夜、理由の沿革欄に『堀運送』の文字を見した瞬、すべての点と線が繋がりました。……堀社。あなたが、財務責任者の言を退けてまで、百億円もの資を弊に預け続けてくださっていた理由は……あののことだったのですか」
「そうです」
俺は迷いなく答えた。
「取。あの、私は融資申込の連帯保証の欄に、母の名をきました。母はのパートにて、夜なべの内職をして計を支えていました。保証としての適格な収入など、どこにもありませんでした。あなたはそれを百も承ので、あえて母の名をく欄を残してくださった」
胸の奥から、いものが込みげてくるのを覚えた。
「母はその類に署名と捺印をしたの夜、自宅の台所で、声をげて泣きました。父がくなってから、母が嬉し涙を流したのを見たのは、にも先にもあのだけです。『弘、の支さんが、おをの男として認めてくれたよ』と……。母はに界しました」
「……そうでしたか」
久取はそれ以、母のについて尋ねることはしなかった。踏み込まず、ただく受け止める――その態度は、に俺の庭の貧しさを切詮索せず、帳簿の数字だけを信じてくれたあのの姿勢と、寸分違わぬものだった。
「あなたがにあの百万円で貸してくださったのは、単なる『お』ではありませんでした。『信用』そのものだったのです。古トラック台の、何の実績もない歳の若者を、王は信用してくださった。だからこそ、私は、王を信じ抜いてきました。柴田がどれほど正論を尽くして資を分散しろと迫ってきても、私は頑なに断り続けてきた。……柴田、これが、俺がおの言をね除け続けてきた理由のすべてだ」
隣に座っていた柴田は、俺の顔を見ようとはしなかった。テーブルの目をじっと見つめ、目を微かに赤く染めていた。
そして俺は、テーブル央の名刺へと線を戻した。
「――ですが。あなたが私に授けてくださったその尊い信用を、あなたの娘さんは、同窓会のくだらない余興の具として使い潰した」
エリの顔から、完全にが消えった。
青かった顔が、のようにく透き通っていく。
自分がの零細企業と嘲笑した会社の発点が、ならぬ自分の父親がした百万円の信用融資であったという衝撃の真実を、彼女はこの瞬、まれて初めてったのだ。
自分が昨夜踏みにじったものの正体が、父親のバンカーとしての誇りそのものであったことに、彼女は打ちのめされていた。